法のくすり箱
Q、兄は小さな会社を経営し、信用金庫から1000万円の運転資金を借り入れました。その際、妹の私は、兄から無理やりに頼まれて、兄とともに連帯保証人になりました。ところがその後、会社の経営が行き詰まり、会社も兄も破産してしまいました。そうすると、信用金庫は破産で回収できなかった残債権(約600万円)を私から回収しようとして、破産手続の終わったころから、私に対して、支払を請求する書面が定期的に送付されるようになりました。私はこれを無視して放置していますが、すでに7年が経過しました。私には、1DKの中古マンション(時価300万円位)がありますが、ほとんど貯金もなく、とても兄の借金を支払う力はありません。どうしたものでしょうか?
A、あなたの債務は、時効によって消滅しているものと思われます。
信用金庫は、なぜか、あなたに請求書を送ってくるだけのようです。信用金庫が請求書を郵送して支払を催告してきても、それから6ヶ月以内に、信用金庫が裁判上の請求や調停の申立ての手続をしなければ、時効は中断しません。あなたの債務は、支払義務が生じてから5年経過したところで、時効にかかっていると思われます。商法は、銀行取引は営業的商行為(502条8号)であり、これに関する債権は、5年間行使しなければ時効により消滅すると定めています(522条)。もっとも、信用協同組合や信用金庫の行う銀行取引は商行為でないという議論もあります。しかし、あなたの兄さんの会社(商人)がその営業のためにする借入れは付属的商行為(503条)ですから、立派に5年の商事消滅時効(522条)の対象となります。
このような時効中断の見地からみると、この請求書が、恐ろしい落とし穴である場合もあります。この請求書に対してうっかり1回でも支払うと、たとえそれまでに時効が完成していても、あなたは、その時効の利益を放棄して債務全体を承認したことになるのです(民法14条3項)。そして、時効は改めてそのときからカウントされ、さらに5年間待たなければなりません。いずれにせよ、あなたが保証人であったとしても、安易に対応することなく、法律事務所へ相談されることをおすすめします。
ところであなたは、兄さんに無理やりに頼み込まれてやむなく連帯保証人になったといわれますが、たとえそうであっても、あなたは、立派に債務者としての責任を負担されているのです。その結果、保証債務の履行を求められても、本来、やむをえないことであり、あなたはそのことを承知された上で対処しなければなりません。
時効を援用することができればあなたの負担は軽微です。それ以外の方法にたやすいものはありません。たとえば、兄さん同様、自己破産の申立てをすること、少しずつ払っていくことで債権者と和解(債務整理)すること、が選択肢ですが、それぞれに大きな負担を伴います。破産は現在の資産を全部投げ出さなければならず、債務整理も少なくとも元本前後の合計額を割賦で返済することになります。

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