Ａ、おっしゃるとおり、現在の法律の下では勘当することは不可能です。よく、親が実子に対して、他人に迷惑をかけたので親子の縁を切るとか、勘当するとかいうことを耳にしますが、これらは法的にはなんら効果を生じるものではありません。勘当等に代わるべき方法としては、目下のところ、財産的な関係にポイントをおいた方法をとるしかありません。



保佐人に同意権・取消権が与えられる行為

(1)　元本の領収・利用 (2)　借財・保証 (3)　不動産・重要な財産に関する権利の得喪をめぐる行為 (4)　訴訟 (5)　贈与・和解・仲裁契約 (6)　相続の承諾・放棄と遺産の分割 (7)　贈与・遺贈の拒絶と負担付贈与・遺贈の受諾 (8)　新築・改築・増築・大修理 (9)　長期にわたる賃貸借

（民法１３条１項）


　ご質問から、息子さんは浪費者（前後のみさかいなく財産を贈与したり負債をつくったりする）であると思われます。この浪費が病的とまでいえるケース、すなわち、本人の判断能力が著しく不十分なままに浪費が止まない場合には、家庭裁判所へ「保佐」の申立てをしてはいかがでしょう。民法１１条では、「精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者」については、家庭裁判所で保佐開始の審判をすることができると規定しています。息子さんが、この保佐開始の審判を受けると、保佐人がつき、この保佐人の同意なくしてなされた借財・贈与等の法律行為は取り消すことができます（１２条）。したがって、保佐人（あなたがなることも可）がつけば、現在の息子さんの行為に歯止めをかけることができ、財産の散逸を防ぐことができるわけです。
　しかし、息子さんには判断能力があるにもかかわらず、承知のうえで浪費を重ねるといった場合には、現在の「保佐」の制度では手に負えないことになります。この保佐の制度は、平成１２年の成年後見制度の抜本改正（くわしくはそよ風103号参照）により、従来の「準禁治産」の制度が改正されたものです。従来の制度では、浪費者は、判断能力があってもなくても、心神耗弱者（判断能力の極端に不十分な人）と並んで、準禁治産者とし、これに保佐人をつけて家族等の財産を保護することが可能でした。たとえばあなたのようなケースでは、父からの準禁治産の宣告申立ては、「勘当」の代用的役割をもっていたわけです。このほかにも、夫が遊興のため家財を持ち出す行為を繰り返すなどのケースでの、妻からの準禁治産の宣告申立ても、同様の意味があります。この場合、正規には、離婚やそれに伴う財産分与で妻の権利が守られるはずですが、夫婦がすでに年輩で子供もあり今さら離婚するのも…という関係でも、この浪費者準禁治産制度は、離婚の代用的抑制効果があったといえます。しかし、平成１２年の成年後見新制度では、判断能力のある浪費者まで保佐の対象とするのはおかしい、「私的自治への過度の介入」だとする考え方が通り、浪費者にとくに保佐人をつける規定は除かれることになったものです。
　ところで、息子さんの将来に見込みがないとなれば、財産も相続させたくないと思われることでしょう。その場合は、遺言で息子さんには財産を相続させない旨を記載するとよいでしょう。ただ、これでも遺留分だけは残ります。遺留分までもなくしてしまいたいと思われるのであれば、「相続廃除」の制度があり、家庭裁判所に申立てをすることができます（８９２条）。これは、遺留分を有する推定相続人が、被相続人に対して虐待をし、もしくはこれに重大な侮辱を加えたとき、または推定相続人に著しい非行があったときに、財産を相続させないようにすることができるものです。この廃除は、遺言によってすることもできます（このときには遺言執行者が家裁に申し立てることとなる、８９３条）。あなたの息子さんが必ずこの廃除の条件に該当するとは限りませんが、可能性は十分にあります。
　ちなみに、現在の苦境を打開するためには、家庭裁判所に対して親子関係調整のための調停を申立て、第三者を交えて話し合い、反省のチャンスをつくることも一つの方法かと考えます。ご検討ください。

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