法のくすり箱
Q、私の一人息子はすでに成年に達していますが、家にも寄りつかず、多額の借金をして、請求書だけが自宅に届きます。これまでは何とか本人に代わって支払いをしてきましたが、最近ますます金額もかさみ返済が苦しくなってきました。私ども夫婦も年金生活で、財産といえば自宅不動産だけです。このまま返済しなければ、当然、自宅に取立てにも来ると思います。不安で仕方ありません。何かアドバイスはないでしょうか?
A、息子さんが借り入れた貸金業者の多くは、「利息制限法」の制限利率(元本100万円以上の場合は年15%、元本10万円以上100万円未満の場合は年18%、元本10万円未満の場合は年20%)を超える利率で契約しています。
この場合、実際に貸金業者に支払っていた約定利息と利息制限法の制限利率による利息との差額は、元本に充当されることとなっています(最高裁昭和39・11・18判決)。貸金業者と長期にわたって取引している場合には、年数によっては元本が減少し、ついには元本を完済した状態になり、さらには貸金業者に対する過払いが生じて、息子さんはその過払い金を不当利得として貸金業者に返還してもらえるという場合までも生ずるのです(最高裁昭和43・11・13判決。くわしくはそよ風140号参照)。したがって、息子さんの過払いの有無等の状況によっては、ご両親が何とか肩代わりして完済することも可能です。
しかし、あなたの場合、息子さんはそれで立ち直るでしょうか。親が肩代わりしても、これまでの借財を繰り返す可能性が少なくないと思われます。安易な肩代わりは禁物。息子さんの借金は、法的には、あくまで息子さんの責任であり、父も母も支払う責任はありません。何とか息子さんを説き伏せて、一緒に法律事務所に出向いて弁護士に相談し、自己破産か債務整理を行うべきです。ずるずると息子さんを支援することは、息子さん本人にも両親のためにもなりません。突き放すことも必要です。
もう一度確認しますが、法的には、親が息子に代わって返す責任は皆無です。正規の貸金業者なら、こうした理はよく承知しています。貸金業者には、「貸金業規制法」に基づいて、してはならない取立て行為が具体的に決められています(くわしくはそよ風123号参照)。それに違反すれば、業務停止や刑事罰が科されることとなり、こちらが毅然としていれば、ご心配のような安易な取立てはできないのです。また、それがヤミ金業者であれば、その貸付行為そのものが犯罪であり(そよ風121号参照)、ヤミ金業者自身そのことをよく知っています。懸念は無用です。法律事務所や警察に対応してもらえば、まったく怖いことはありません。
繰り返しますが、息子さんに法律事務所に出向く決心をさせ、必要ならあなたが一緒に付いて行ってあげることです。しかし、息子さんの肩代わりは絶対に避けてください。
ちなみに、依頼を受けた法律事務所では、すぐに貸金業者に対して事件を受任したという通知(介入通知)を出し、貸金業者から取引履歴の開示を受けます。そして利息制限法による利率で利息を再計算(引直し計算という)し、過払い金が生じている貸金業者に対しては返還請求をしてくれます。しかし、過払い金が出るにはその貸金業者との間で8年程度の借入れと返済が続いていることがメドです。過払いにまで至らない貸金業者、過払いの生じた貸金業者、双方の負債・過払い状況から、法律事務所は息子さんをどうするか(破産・任意整理など)について検討することになります。

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