法のくすり箱
Q、夫が死亡して8年になりますが、最近ふとしたことから、夫の親友だったAが、夫の亡くなる直前に、夫から500万円を預かったまま着服していたことがわかりました。Aに対して損害賠償請求も考えていますが、Aは現在多額の借金をかかえて無一文に近く、お金は返らないと思います。しかし、何食わぬ顔で暮らしているAを見るにつけ、この際、告訴して刑事処分を求めたいと思うようになりました。今からでも可能でしょうか?
A、あなたの場合、残念ながら、犯行後8年もたっているので、Aの罪を問うことは困難です。
Aの500万円の着服は横領罪(刑法252条)にあたり、最高5年の懲役に処せられる罪となっています。そして、5年以上10年未満の懲役にあたる罪については、「5年」で公訴時効(刑事訴訟法250条)にかかります。公訴時効とは、犯罪がなされてから一定期間内に起訴されなかったときには、その後はもう罪を問われなくなるという制度です。
もっとも、犯人が国外にいる期間、または、すでに犯人が起訴されているなら犯人が逃げ隠れしているため起訴状が送付できない期間についても、公訴時効は進行しません(刑事訴訟法255条)。ですから、もしAが犯行後何年も外国生活をしており、その期間を除けばまだ犯行から5年が過ぎていないというような特別な事情がない限り、あなたは告訴をあきらめざるを得ません。
もし、Aの着服が、集金人としての立場で行われるなど、業務上の横領(刑法253条)としてなされた場合には、その罪は最高10年の懲役ですから、その公訴時効は7年ということになります(刑訴法250条)。それでもやはり、あなたは、犯行後8年を経過した犯罪ということで、その告訴は断念するほかありません。
なお、近時、重罪を犯した凶悪犯については、公訴時効を延長する方向にあります(そよ風134号参照)。平成17年の刑法等の改正で、殺人など死刑にあたる罪の公訴時効は25年(改正前は15年)となりました。
なお、この改正では、有期刑の上限が一斉に引き上げられました。たとえば、懲役や禁錮に処する有期刑については、これまで最長20年と定められたままでしたが、上限が30年と重くなりました。さて、ご参考までに、最新の公訴時効の一覧表を掲げます。
公訴時効一覧(刑事訴訟法250条)
公訴時効 | 代表的な犯罪 |
死刑にあたる罪 | 25年 | 殺人罪・現住建造物等放火罪・内乱罪等 |
無期懲役・禁錮にあたる罪 | 15年 | 強盗致死傷罪・通貨偽造罪・身代金誘拐罪・強制わいせつ致死傷罪等 |
上限が15年以上の懲役・禁錮にあたる罪 | 10年 | 強盗罪・強姦罪・集団強姦罪等 |
上限が15年未満の懲役・禁錮にあたる罪 | 7年 | 業務上横領罪・強制わいせつ罪・公文書偽造罪等 |
上限が10年未満の懲役・禁錮にあたる罪 | 5年 | 横領罪・公正証書原本不実記載罪等 |
上限が5年未満の懲役・禁錮又は罰金にあたる罪 | 3年 | 贈賄罪・脅迫罪・住居侵入罪等 |
拘留又は科料にあたる罪 | 1年 | 失火罪・過失傷害罪・侮辱罪等 |
ちなみに、Aの行為は、民事的には不法行為(民法709条)に該当します。無一文のAからは何もとれないとのことですが、Aに対する損害賠償請求権自体は、まだ時効にかかっていません。あなたがAの行為を知ってから3年間、または、Aの行為が行われてから20年間は、時効消滅しませんのでご留意ください(民法724条)。

ホームページへカエル
「法のくすり箱」目次にもどる
次のページ(法のくすり箱「ネットオークションで入手した時計が盗品?!」)へ進む