法のくすり箱
Q、私は借地上の古家に住んでいましたが、老朽化したので新築しようと考え、一昨年、この家を取り壊しました。ところが、家を取り壊してまなしに、私は健康を損ねて療養の身となりました。建築しないまま放置しておいても問題は起こらないでしょうか?また、もし私が借地を地主に返還するとした場合には、私は地主から借地権の価額を補償してもらえるのでしょうか?
A、あなたが借地上に建物を所有し、その建物に所有権の登記があれば、あなたはその土地に借地権の登記(借地権の登記をしている例はきわめてまれ)をしていなくても、第三者に対抗することができます。
第三者に対抗するとは、たとえば地主が土地を第三者に売却しても、あなたは引続き買主である第三者に、その土地の借地権者であると主張できることをいいます。この対抗力があるかないかの決め手が、建物の所有権登記というわけです。
さて、あなたは、借地に建物のないまま放置しておられますが、それでは第三者への対抗力を失いかねません。
建物を取り壊してから2年間は、借地に一定の事項を記載した立て札(右図参照)を掲示することで、対抗力を維持できます(借地借家法10条)。しかし、2年が経過すれば、借地権の対抗力はなくなります。
そこで、2年が経過してしまったらどうするか。あなたとしては、その土地に建築計画中である旨の立て札を掲示するなりして、その土地が地主から第三者の地上げ業者に売却されないよう、せいぜい牽制するべきかと思われます。また、直接に地主に建築が遅れている事情を話して、他の第三者に売却しないよう頼むことも心得ごとです。
ところで、あなたは、借地を地主に返還することもお考えのようですね。多くの場合、借地人からの自発的返還は地主に歓迎されます。返還を受ける地主には、借地権を買いとる義務がなく、何ら支払いをする必要がないからです。返還すれば地主が借地権の対価を支払ってくれるなどと期待してはなりません。
これとは別に、地主の方から借地人に立退きを求めた場合、これに応ずるかどうかはまったく借地人の任意です。したがってこの場合は、借地を解消して出ていってもらいたい地主の方が、立退き料などの名目で相当額を支払い、この形で、実質は、地主が借地人から借地権を買い取ることは考えられるところです。借地人は、借地契約を継続中ならば、たとえば、借地権付の建物の売却に際して借地権の経済的価値が独自に評価される次第ですが、借地権を放棄(返還もその一種)するというのでは、借地権の経済的価値を実現することは困難です。

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