法のくすり箱
Q、最近、銀行で口座を開いた際に、高齢ですので、暗証番号をあまり複雑にすると忘れるかもと思い、自分の生年月日にしました。後日、銀行からはカードの不正引出し被害が多発しているので暗証番号を変更するよう連絡がきましたが放置していたところ、このたびカードや免許証の入ったバッグを盗まれてしまいました。翌日銀行に届けましたが、すでに全額引き出されていました。勝手だとは思うのですが、銀行に補償してもらうことはできないでしょうか?
A、あなたの場合、盗難・偽造カード等による不正引出しの被害から預金者を守るための法律「預金者保護法」(平成18年2月10日施行)が適用されます。同法では、盗難カード・預金通帳を使って、現金自動支払機(ATM)から不正に引き出された預金については、金融機関がこれを補償する制度が設けられています(5条)。
まずは、次の3つの手続きをとることが必要です。
- (1) 金融機関に、すみやかにカード等が盗まれたことを通知する(電話等でよい)。
- (2) 金融機関に、盗まれた事情をきちんと説明する(対面で行う必要)。
- (3) 警察に盗難届を出す。
あなたは、すでに(1)の手続きをすませておられますので、(2)・(3)の手続きをすぐにとって、銀行に「補填(ほてん)請求」をしましょう。銀行への届出の30日前までの不正引出しについて、補償の対象となります。
ただ、補償されるのは、ATMからの不正引出しに限定されます。バッグに入っていた通帳・印鑑を使って、窓口で対面取引で引き出された場合は保護の対象となりませんのでご注意ください。また、預金者の家族・同居人・使用人が引き出した場合や、被害状況を偽ったときも対象外となります。
さて、補償を受けるにあたって重要なのが、あなたの過失の有無です。あなたに過失がないと判断されれば、銀行は不正に引き出された被害の全額をあなたに補償します。しかし、もしあなたに過失があると判断されれば、補償金額は減額されることになります。この過失の立証責任は、預金者保護法により金融機関側に課されています。
全国銀行協会では、実務上の取扱いとして、過失となりうる場合の典型例をいくつかあげています。
まず、「重過失」となる事例は、(a)自分が他人に暗証番号を知らせた、(b)暗証番号をキャッシュカード上に書き記していた、(c)自分が他人にキャッシュカードを渡した、といった事例ですが、年齢・心身の状況なども考慮して判定されます。重過失とされると、補償は一切行われません。
次に、「過失」とされる事例で、もっとも問題にされるのが暗証番号の管理についてです。生年月日や電話番号等類推されやすい暗証番号を、銀行等から変更するよう再三働きかけがあったのに使い続けていた場合、あるいは、カードの暗証番号をロッカーや携帯電話などでも使用する暗証番号と同一にしている場合です。それだけでは直ちに過失となるわけではありませんが、これに加えて、たとえば、健康保険証や免許証などと共に携行・保管していたり、カードを入れた財布を人目につくところに放置したり、また、酔っぱらったあげくに盗まれたりといった事情が重なれば、金融機関は総合的に判断して過失を認めることになります。さらに、暗証番号をメモ書きして、カードと共に携行・保管している場合も過失が認められる可能性があります。
あなたは生年月日を暗証番号に使われていたとのこと。それだけでは直ちに過失とみなされることはありませんが、銀行からの再三の変更申請を放置し、しかも免許証まで盗まれています。あなたの場合は、過失とされる可能性が高いかもしれません。もし過失ありとされた場合、あなたが銀行から受けられる補償は、被害額の75%にとどまることになります。
金融機関による補償額は?
過失の有無 | 盗難カード | 偽造カード |
過失なし | 全 額 | 全 額 |
重過失以外の過失 | 75% | 全 額 |
重過失 | な し | な し |
ちなみに、偽造カードを使ってATMから不正に預金が引き出されたケースについては、容易に偽造カードを作成しうる脆弱なシステムをもつ金融機関にも責任があるということで、たとえ預金者に過失があっても全額補償されるシステムとなっています(ただし、偽造カードが作られることがわかっているのに本人がカードを渡したといった重過失があれば補償は当然ない)。

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