法のくすり箱
Q、昨年、私は父母を次々と失いましたが、今年になってこのたび、父のたった一人の兄弟(私にとっては叔父)が急逝しました。叔父は生涯独身で過ごし、子供もありません。私は父母にとってたった一人の子供でしたから、両親はともに私をずいぶん大切に育ててくれましたが、この叔父ときたら、私を溺愛といってよいほど可愛がってくれました。しかしその叔父は、大変な借金を背負って亡くなっている様子です。私が、叔父の借金の影響を受けることはないでしょうか?
A、ふつう相続人は、亡くなった人(被相続人)の資産だけでなく、負債も相続することとなっています。
もし、叔父さんに奥さんや子供さんがあれば、あるいはその父母(あなたにとっては父方の祖父母にあたります)の一方または両方がまだ生きていらっしゃれば、それらの人が相続人です。
しかし、叔父さんにはそのような相続人がないご様子です。そのときには、叔父さんの兄弟であるあなたのお父さんが相続人となります。しかし、あなたのお父さんもすでに亡くなっておられ、一人息子のあなたがいらっしゃる。民法は、兄弟が死亡していても、その子供(本件ではあなた)がいれば、その子供が法定相続人になると定めています(民法八八九条)。このため、あなたは叔父さんの負債だけの財産を相続することがありうるのです。
あなたがこれを免れるためには、家庭裁判所へ出向いて「相続の放棄」をすることです。あなたは、この法のくすり箱で具体的に相続順位を知り、自己が相続人となったことを覚知したといえます。判例は、この覚知したときから3ヶ月以内に放棄の手続きをすればよいものとしています(大審院 大正15.8.3決定)。しかし、相続放棄の手続きは、通常は、相続開始の原因たる事実(わかりやすくいえば叔父さんの死去)を知ってから3ヶ月以内であり、3ヶ月以内に家庭裁判所をたずねるのが無難です。家庭裁判所では書式を示して丁寧に指導してくれるはずです。
ところで、別に相続の限定承認という制度もあり、これは、被相続人の資産の範囲でだけ負債を引き受けるという制度です。<ことば欄>に取り上げておきますが、やや複雑なので、関心がおありならば家庭裁判所や法律事務所へお問い合わせください。
<ことば欄>
☆限定承認
相続人が相続によって得た財産を限度として、被相続人の債務等の義務を負担することを留保したうえで、相続の承認をすること(民法922〜937条)。
相続財産が明らかに負債超過の場合は相続放棄をすれば足りるが、負債超過のおそれがあるという程度の場合には、限定承認をすれば、清算の結果プラスの財産が残れば、これを取得できるので有利である。
限定承認をするには、相続の開始を知ったときから3ヶ月以内に、財産目録を作成して家庭裁判所へ申述書を提出しなければならない。相続人が複数あるときは、全員でする必要がある。
限定承認をすると、相続財産について清算が開始される。まず、相続人のうちから相続財産管理人が選任され、一定の期間を定めて相続債権者及び受遺者に対して公告をする。この期間経過後に、期間内に申し出た債権者・受遺者の順で弁済していき、なお残余財産があれば、期間経過後に申し出た債権者・受遺者に弁済し、さらに残余財産があれば、相続人間で分配することとなる。

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