法のくすり箱
Q、私は、暴力をふるう夫と別居して15年になります。別居当時中学生だった娘は、私の手元で私が育て、大学までやってすでに成人しました。この間、夫は、約束していた月5万円の生活費をまったく支払わず、何度か請求しましたが応じてくれませんでした。私たち母子は、いわば放置されてきたのです。ところが、このたび突然、一緒になりたい女性ができたので別れてくれと言ってきました。夫の言い分では、私との結婚はすでに破綻しているから、離婚の裁判をすれば私の負けだ、ここはおとなしく離婚届に判をついてくれと申します。私は夫のいうような弱い立場なのでしょうか?
A、 あなたの夫が、婚姻における夫や父としての責任を果たしていないということであれば、そのような夫からの離婚請求は認められないとするのが、いわゆる有責配偶者の離婚請求に対する従来からの判例でした。ところが昭和62年の最高裁判所の判例変更により、一定の条件が認められるケースでは、婚姻の実質的な破綻を理由に離婚が認められることになりました。
その条件とは、
- (1) 別居期間が夫婦の年齢や同居期間との対比において相当の長期間に及ぶこと。
- (2) 未成熟の子が存在しないこと。
- (3) 離婚を認めることが社会正義や信義誠実の原則に照らしても許されるものであること。
とされ、(1)・(3)は抽象的な表現であるだけに、個々のケースに即して判断していくほかありません。
そこであなたのケースですが、前記(1)の関係で、15年の別居期間は短いとは言い切れません。(2)の点は、子どもは成人されています。(3)の点は、さらにくわしく事情をうかがう必要があります。そして、裁判までいった場合には、離婚が認められる余地があります。
しかし、離婚裁判は、まず離婚の家事調停をして、それが不調のときにはじめて提起できることになっています(調停前置主義)。そこでまず、離婚調停の手続きにおいて、あなたもしっかり言い分を述べられ、もし、調停離婚に応じられたとしても、慰謝料や財産分与についても要求されてはいかがでしょう。
調停が不調で、夫が離婚裁判をおこしてきたときには、当然あなたは応訴されるわけですが、仮に夫の離婚が認められても、夫から、慰謝料や財産分与は得たいと思われるなら、その裁判の中で要求しておかれることが賢明です。その手続きは予備的反訴といいます。依頼した法律事務所にご相談ください。

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