法のくすり箱
Q、犯罪など私には縁のないものと考えていました。ところがこのたび、ほかならぬ私の夫が傷害罪で捕まってしまいました。夫は現在拘置所に勾留されています。逮捕されて裁判にかけられることは仕方ないと思いますが、私は現在体調が悪く、介護の必要な両親とまだ小学生の2人の子どもを抱えています。夫の刑事処分が決まるまでの間だけでも、夫を拘置所から出してもらうことはできないでしょうか?
A、あなたの夫は、現在、拘置所に勾留中とのことですが、すでに起訴されているのでしょうか。起訴される前の、まだ、警察や検察官の取調べを受けている段階では、ご主人を拘置所から出す方法はありません。
しかし、起訴された後でならば、裁判所に保証金を納めて、一時的に、勾留中の被告人(あなたの夫)を拘置所から出してもらう「保釈」という手続きがあります。もちろん、妻であるあなたや親子兄弟など一定の親族には、保釈を請求する権利が認められています(刑訴法88条)。
ただ、保釈を請求しても、必ずそれが許可されるわけではなく、(1)短期1年以上の懲役・死刑・無期懲役などにあたる罪を犯したものであるとき、(2)常習として長期3年以上の懲役にあたる罪を犯したものであるとき、(3)罪となる証拠(罪証)を隠滅すると考えられるとき、(4)事件の関係者や証人になりそうな人を脅す(威迫)おそれがあるときなどの事由があるときには、保釈が認められないことがあります(刑訴法89条、権利保釈)。
もっとも、被告人に権利保釈を妨げる前記の事由がある場合でも、裁判所が、とくに保釈が適当と判断したときには保釈が認められます(刑訴法90条、裁量保釈)。また、保釈について判断する場合、裁判所は、検察官の意見を聴かなければならないとされています(刑訴法92条)。ところで、あなたの夫には、起訴と同時に、国選弁護人または私選弁護人がつくことになります。そして実務において、この保釈手続きは、弁護人によって行われます。あなたとしては、弁護人を通じて保釈を許すように裁判所に働きかけることになります。その際には、裁判所に対し、(a)被告人が裁判の際に必ず出頭すること、(b)外に出て同じ犯罪をおかさないこと、(c)被害者・関係者と直接面談・電話等で接触しないこと、(d)住居や旅行などについて裁判所の制限に服することを強くアピールすることです。出頭の確保のためには、あなたが、身元引受書を出すことも有効です。
さて、保釈を許す場合には、裁判所は、裁判の際にご主人が出頭することを確保するため、保証金(保釈保証金)を納付することを求めます。この保証金の額は、裁判所が、犯罪の性質及び情状証拠の証明力、被告人の性格及び資産を考慮して、その出頭を保証するに足りる相当額とされています(刑訴法92条)。ところで、「保釈保証金」を出すのはあなたです。保釈に際し、弁護人によく事情を話し、用意することが可能な金額を裁判所と交渉してもらうことが必要です。
ただ、一般的な傾向として、保釈許可が出るのは難しくなっており(2割程度)、保証金も高額化(最低150万円以上)する傾向があります。
なお、この保釈の保証金は、裁判が終了すれば、必ず返還されます。しかし、裁判の終了までに被告人が逃亡したり、出頭を拒んだり、証拠を隠滅したり、関係者を畏怖させる等の行為があったときには、保釈は取り消され、保証金の全部または一部が没取されることになります。
裁判官が保釈を決定すると、裁判所に保証金を現金で納めるのと引換えに、ご主人は拘置所から出ることができます。保釈が期待できる場合は、すぐ納付できるように現金を用意しておくことが必要です。

ホームページへカエル
「法のくすり箱」目次にもどる
次のページ(法のくすり箱「勾留中の友人との面会…どんな手続き・決まりがあるの?」)へ進む