法のくすり箱
Q、私の家から公道へ出るには、隣家の敷地内にある幅員約2メートルの通路部分を通らなければならず、私は、これまでその通路を長年にわたり、徒歩または自動車で通行してきました。その通路部分の通行については、格別、隣家の承諾があったわけではありませんが、私の家では戦前から通行してきたのです。しかも、数年前に自動車のためのアスファルト舗装もしたのですが、隣家からの苦情はありませんでした。ところが今年になって、隣家が引っ越され、買い取った業者の話では、当該通路部分を新しいマンションの敷地の一部にする計画のようです。これまでのように、引き続き通路として通行することはできないのでしょうか?
A、あなたの土地は、他人の土地に囲まれて、公道へ直接出ることができない土地といえます(いわゆる袋地=ふくろぢ)。この袋地には、「袋地通行権(従来の囲繞地=いにょうち通行権)」といって、公道に出るために必要な範囲で、他人の土地を通行することが、当然ながら認められています(民法210条)。しかし、これは原則として、徒歩による通行に必要な幅員が認められるもので、あなたの場合のように、自動車の通行できる幅員の通路までも確保することは、常に、一概に認められているわけではありません。ただ、モータリゼーションの進展に伴って、従前の利用状況を考慮して、自動車の通れる幅員を確保することも認める判例が、現在では増えてきています(福岡高裁昭和47・2・28ほか)。
さて、あなたの家では、戦前からの長きにわたって、その幅2メートルの通路を通行してきたということですね。この通行については、上記の次第で、自動車も通るようになってすでに長年月がたっていると主張することで、2メートル幅の通路について袋地通行権が認められる可能性があります。しかし、隣家はこれまで、事実上幅2メートルもの通路使用を黙認してきただけで、あなたの袋地の通行権としては徒歩通行に必要な1メートル程度に過ぎないという見方もできましょう。
しかし、たとえ幅2メートルの袋地通行権が認められないとしても、あなたとしては、長年にわたって通行使用が継続し、それが外観上明白であると認められるときには、あなたの側は「通行地役権」という通行すべき権利を時効取得していると主張することが可能です。しかも、あなたは、当該通路部分にアスファルト舗装をして、車で通行するようになってからすでに数年を経過しているとのこと。あなたがすでに通行地役権を取得していたことの間接的な裏付けになるといえましょう。また、アスファルト舗装にするときも、隣家がこれにストップをかけることもなく黙認したとのこと。この事実をもって、この時点で通行地役権が設定されたとみることもできるかも知れません。あなたとしては、これらの点を主張して争うことになります。
本件では、隣地の所有者が新しい所有者に変わったとのことですが、「袋地通行権」の場合には、新地主に対しても問題なく無条件に主張することができます。他方、「通行地役権」は、建前としてはそれが登記されていなければ、新しい所有者に対して主張することはできません。しかし、通路としての使用の実情から、その通路には通行地役権が存することが明白であるケースが少なくありません。あなたの場合のように、通路をアスファルト舗装しているようなケースではなおさらです。このように、「客観的に通路であることは明らかである」とされる場合には、たとえ登記していなくても、通行地役権を新地主に主張することが認められています(最高裁平成10・2・13判決)。

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