予防法務ジャーナル「そよ風」▲交通事故の後遺障害認定▼

法のくすり箱

Ｑ、私は昨年、自動車にはねられて大けがをしました。２ヶ月に及ぶ入院の後リハビリを受け、ようやく職場に復帰したものの、右ひざの関節が損傷し、９０度以上は伸ばせません。病院で診断してもらったところ、右ひざはもうこれ以上は治らないといわれてしまい、症状の固定状況を記した「後遺障害診断書」が交付されました。後遺障害は、その程度によって障害の等級が定められ、補償がなされると聞いています。しかし、右の診断書には障害等級までは書かれていません。私の後遺障害はどの程度のものと考えられるのでしょうか？

Ａ、ご質問のとおり、後遺障害に対しては、障害の等級付けが行われ、その程度に応じた損害賠償がなされます。

　後遺障害による損害賠償には、(1)後遺障害によって失われたその後の労働能力に対する損害賠償（逸失利益）、(2)後遺障害が生じたこと自体に対する慰謝料（後遺障害慰謝料）の２種類の賠償があります。このいずれの賠償も、後遺障害の程度を基準に、その額が算定されることになります。

後遺障害の程度は、後遺障害別等級表により、第１級から第１４級までに分類されます（自動車損害賠償保障法施行令別表第２）。たとえば、両眼が失明した場合には第１級（労働能力１００％喪失）、片方の手の親指を含む２本の指を失った場合には第８級（同４５％喪失）など、後遺障害の部位・程度に応じて、この等級表にあてはめて認定が行われます。

　あなたの場合も、仮に、下肢の３大関節の１つの機能に著しい障害を残すと判断されれば、第１０級（労働能力２７％喪失）に該当すると認定されることになります。

　さて、あなたの損害調査や損害額の査定を行うのは、「損害保険料率算出機構」という組織です。同機構は、「自動車保険料率算定会」（自算会）といわれた、損保会社を会員とする保険事故にかかる調査機関を前身として、平成１４年７月に設立されたもので、保険料率など広く保険の調査業務を行っています。

　各損保会社が独自に損害額の査定をすると、支払金にばらつきが出て、公平性が失われるおそれがあります。そこで、自動車保険等の国民生活に密着した損害保険については、社会・公共的な観点から公正で妥当な運用を図るために、法律（損害保険料率算出団体に関する法律）に基づいて、こうした中立的団体が設立されました。同機構では、精度の高い統計により適正な基準・参考料率を算出したり、現実の交通事故について損害調査・査定にあたります。この調査の中に、後遺障害の審査業務が含まれるのです。

　あなたが、本件事故にかかる損保会社（すでにあなたと連絡があるはずです）に対し、保険金支払請求書など必要書類に、後遺障害診断書を添付して請求すれば、当該損保会社はこの「損害保険料率算出機構」に調査を依頼し、同機構があなたの障害等級を決めてくれます。そして、損保会社がこれを受けて、あなたにその等級を通知する手順となっています。

　もし、同機構が決定した後遺症の障害等級に不満がある場合には、異議の申出をすることができます。その手続きについては、各損保会社が必要な書類を送付してくれますので、その指示に従ってください。これに対してもなお異議がある場合には、訴訟において、同機構とは別の障害等級の認定を求めるほかないと思われますが、裁判実務でも、同機構の認定が尊重されるのが実情です。

　なお最近、上記の「損害保険料率算出機構」とは別の、

有責性や後遺症等の認定の機構である「財団法人自賠責保険・共済紛争処理機構」（ことば欄参照）の活動が注目されていますのでご留意下さい。

　ちなみに、あなたの障害等級が前述のとおり１０級と認定されれば、賠償額は次のようになります。まず逸失利益は、あなたの年収に労働能力喪失率である２７％をかけた数字に、一定の係数（ホフマンあるいはライプニッツ係数。就労可能年数に応じて中間利息を控除するための計算方法）をかけて算出されます。次に、後遺障害慰謝料については、自賠責保険では１８７万円（任意保険も同様）が支払われますが、訴訟になった場合の実務では４００～５００万円前後の判決となることが多く、この点は保険と裁判との間に大きな開きがあります（なお、大嶋芳樹「自算会の仕事」「裁判と保険でこんなに差が！」そよ風９４・１００号参照）。

ことば欄

☆財団法人自賠責保険・共済紛争処理機構: 　被害者の保護を目的として、２００２年（平成１４年）に設立され、国から指定を受けた紛争処理機関。現在、東京（TEL０３－５２１７－５０３１）と大阪（TEL０６－６２６５－５２９５）の２ヶ所に設置されている。交通事故での過失責任の有無、後遺障害の等級などにつき、保険会社や共済団体・組合が示した判断に納得できず紛争が生じたとき、当事者の申請を受けて審査を行う。審査は書類上で行われ、原則として出席の必要や費用は不要。保険会社や共済団体・組合は、その結果を遵守する仕組みとなっている。

ホームページへカエル
「損害賠償Ｑ＆Ａ」目次にもどる
 次のページ（法のくすり箱「借家を全焼、隣家も類焼。損害賠償の義務と範囲は?」）へ進む