法のくすり箱
Q、当社は、先月5名の新規学卒者の採用を内定していましたが、今月になって2名が入社を断ってきました。たまたま当社も来期の受注見通しが急激に悪化し、採用も2〜3名手控えなければならないところだったので、かえって好都合でした。それはともかく、採用内定の取消しはどちらからも自由に行えるものでしょうか?
A、新規学卒者に対して採用を内定して通知した場合には、会社と内定者との間に労働契約が成立します。しかし内定者が卒業できなかった場合、身上書の記載事項に大きな偽りがあった場合、会社側の大幅な業績悪化のためやむをえない場合など、社会通念上合理的であると認められるときには、会社のほうで採用内定を取り消すことができます(解約権を留保した労働契約の成立)。
しかし、思想・信仰・家系・出身地等を理由とする不合理な取消しは認められません。そして会社の事情による取消しも、不況による業績悪化等を理由とする場合にはやむをえないものの、もともと内定者側には落ち度はないのですから、その他の場合には事情の如何により権利の濫用とされて取消しが認められないことがあります。また取消しが正当と認められた場合でも、会社の都合で取り消すというからには損害賠償の問題(内定者の信頼利益の補償)が残りますので、内定者に事情をよく説明して了解してもらう努力を尽くすことが肝要です。
内定者側が会社に断ってきた場合、それが契約違反であることには相違ありませんが、訴訟等により本人に労働契約を履行するように強制することはできません。なぜなら、労働者の意思に反して就労を強制することは強制労働の禁止規定(憲法18条・労働基準法5条)に抵触することになります。もっとも、契約の不当破棄に対しては債務不履行を理由に損害賠償を請求することは可能ですので、会社の採用政策の問題として、責任を追求すべきかどうかを判断することとなります。

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