法のくすり箱
Q、90半ばまで長寿を保った母が大往生を遂げました。近年、少し物忘れやトンチンカンな言動もありましたが、亡くなるまでは病床に伏すこともなく元気でした。5年前、母は、都心に所有する収益マンションを私に遺贈してくれるというので、公証人役場で遺言公正証書を作成し、マンションは私が相続できるようにしてもらっていました。ところが、母が死亡して1ヶ月半ほどたって、裁判所から母の自筆による遺言書が発見されたのでこれを関係者で確認する手続き(検認)に立ち会うようにとの連絡がありました。出頭して確認した遺言書には、私にマンションを遺贈するとの遺言はなく、母の近所に住んでいる弟に相続させるとなっていました。公正証書の遺言はどうなるのでしょうか?
A、遺言は公正証書であれ、自筆の遺言書であれ、新しいもの(後から書かれたもの)が優先します(民法1023条)。
公正証書の遺言によるときには、自筆の遺言書のように裁判所で検認を受ける必要がありません。また、他の共同相続人に知らせずに、受遺者が単独で不動産の相続登記を完了できるというような利便もあります。
しかし、公正証書で遺言しても、その内容がさらにあとからなされた遺言の内容に抵触するときには、そのあとからの遺言(このケースではマンションは弟に遺贈するとの遺言)が唯一有効となるのです。あなたが、公正証書に基づいてマンションをあなたのものに相続登記をすませていたとしても、その登記は弟さんの相続登記へと更正されなければなりません。
このように、公正証書を作成したといって、一概に安心はできません。高齢の遺言者であれば、加齢とともに判断力が衰え、別人が遺言を頼むとうっかり前に遺言をしていることを失念することがあります。そのことを考えれば、日常、遺言者の動静に注意し、毎年または定期的に遺言書を更新(書き直し)してもらうことも一考かと思われます。
ちなみに、新しい遺言書が作成されたからといって、それ以前の遺言書のすべてが無効になるというわけではありません。あとからなされた遺言の内容と抵触する部分のみが無効となり、抵触しない部分はあくまで有効とみなされます。古い遺言書を撤回する旨の内容を新たに遺言書に盛り込んだ場合、あるいは、遺言者自身がその古い遺言書を破棄した場合には、古い遺言書はすべて無効となり、新しい遺言書のみが本人の遺言ということになります。

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