法のくすり箱
Q、先日、資産価値があると友人に勧められてマンションを購入し、テレビを設置したところ、さっそくNHKの集金人がやってきて受信料の支払いを求められました。私が「すでに、主に生活している家で受信料を払っている」と言うと、「単身赴任者にも受信料を頂いているので…」と請求されました。集金人の説明に納得できなかったので、結局支払わなかったのですが、やはり、受信料を支払う義務はあるのでしょうか?また、支払わなかった場合はどうなるのでしょうか?
A、結論としては、受信料を支払う義務はあります。また、支払わなかった場合には、損害賠償を請求される可能性があります。しかし、裁判まで起こして受信料を請求された事例はないようです。以下、順を追って説明しましょう。
NHK(日本放送協会)は、放送法に基づき設立されています。同法では「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、……受信についての契約をしなければならない。……契約を締結した者から徴収する受信料を免除してはならない」(32条1・2項)として、テレビを設置した場合は、実際に視聴しているかどうかにかかわりなく、受信契約を結んで受信料を払わなければならないと定めています。
本来、自由社会では、契約を締結するかどうかは個人の自由であるはずです(契約自由の原則)。しかしNHKについては、あまねく国民に豊かで良い放送を提供して公共の福祉を実現するという公共放送の目的(法1条)を達成するよう、特別の役割を与え、CM放送を禁止する一方、国民に受信契約を締結する義務を設けたのです。
それでは、あなたのように、すでに他に住んでいる家で受信料を払っている場合でも、別の家にテレビを設置したときには、さらにその分も受信料を支払わなければならないのでしょうか。
NHKでは、総務大臣の認可を受けて「日本放送協会放送受信規約」という受信契約を作っています。その中で、「放送受信契約は、世帯ごとに行なうものとする。ただし、同一の世帯に属する2以上の住居に設置する受信機については、その受信機を設置する住居ごとにする」としています(2条)。つまり、1つの家で何台テレビを置いていても受信契約は1つでいいが、あなたのように、他にマンションなどを購入してテレビを設置したときは、新たに受信契約を結ばなければならない(=受信料をさらに支払わなければならない)ということになります。
では、NHKとの受信契約を拒否して、受信料の支払いをしなかった場合、どのようになるのでしょうか。この点については、法律ではとくに罰則は設けられていません。そのため、契約を拒否した人には、NHKに対する民事上の責任が生ずるだけということで、具体的には、受信契約義務の不履行に基づく損害賠償を請求される可能性があるということになります。
もっとも、実際上、これまでNHKが受信契約に関して、裁判で損害賠償を請求した例は1つもありません。受信契約を拒否している人はたくさんいても、NHKは、事実上強制措置はとらないといってよいでしょう。契約自由の原則の例外とはいえ、現実に国民の経済的自由権(憲法29条1項)を制約していることに、事実上配慮しているからなのかもしれません。しかし、これでは、まじめに受信料を払っている人とそうでない人に不平等が生じるという疑問が残りそうです。
公共放送というNHKの特別な役割を考えるとき、国民も、単に受信料を支払うだけでなく、同時に、その放送内容について、積極的に要望を出して反映させることができる点も、今一度確認しておきましょう(法44条)。いわば、私たち自身がスポンサーであり、私たちにとって真に有益な放送としていく権利もあるということです。

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