法のくすり箱
Q、最近私は、ボランティアで子供スキーの指導をしないかと誘われています。こういったボランティア活動に興味はありますが、練習中に子供たちが大きな怪我でもしたら、と不安に思います。もしものときには監督として法的責任を問われるのでしょうか?
A、民法では、故意または過失により他人の権利を侵害した場合には、その損害を賠償する責任があります(709条、不法行為責任)。
つまり、あなたのミス(技能や年齢に応じた適切な指導をしなかったり、十分な監督をせず放置したなど)が原因で事故が起これば、あなたには監督者として賠償責任が生じることになります。たとえ、それがボランティア活動であり、社会的に有意義なものであったとしても、あなたが好意から引き受けたものであっても、しかもたとえ無償であったとしても、この責任は軽減されないと考えられています。
ただ、不幸にして実際に事故が起こったときには、被害者である子供の側にも過失がなかったかが加味されて、賠償額が決定されることになります。たとえば、子供があなたの指示に従わなかったとか、一般的にある程度自分の責任で適切な行動をとることが期待できる年齢であったといった事情が考慮されて、減額される可能性があるのです(722条、過失相殺)。
さらに加えて、ボランティア活動ということで、次のような判例も出ています。
子供会主催のハイキング中の事故により死亡したケースで、子供会活動はあくまで子供の自主的活動を中心とするものであること、さらに無償の奉仕活動によって支えられているこうしたケースでは、業としてなされる団体活動(たとえば旅行業者によるハイキングツァーなど)と比べて違法性の程度はかなり低く評価されるべきであるとして、結局、前述の子供の過失相殺に加えて減額されて、全損害の2割の責任とした事例(津地裁昭和58・4・21判決)。
また、少年剣道会の旅行中の水死事故のケースでは、引率者らは剣道の指導者であり、磯遊びの危険防止や学校の教師と同等の安全指導・監督は期待できないのを知りながら、児童の両親は同行をできるだけ求められていたにもかかわらず同行しなかった事情が、子供の過失相殺に加味されて減額され、やはり2割の責任とした事例があります(札幌地裁昭和60・7・26判決)。
このように、実際の事故が起きれば、具体的な事情が個々に判断されて損害賠償の有無・程度が決定されることになります。
さて、スポーツ活動には、あなたのご心配のように事故は付きものともいえましょう。そこで、スポーツ安全保険・ボランティア活動保険への加入を是非お勧めします。どちらも、数百円という掛け金で、あなた自身の怪我や死亡に対する保険金をカバーしますし、同時に、あなたが誰かに怪我を負わせた場合の賠償責任保険金(限度額も数億円)も支払われることになります。前者は各都道府県の財スポーツ安全協会が、後者は各都道府県の社会福祉協議会が加入窓口となっていますのでお問い合わせください。なお、スポーツ安全保険は、スポーツに限らず文化・ボランティア・地域活動も対象となります。
親は指導者を信頼して子供を預けるのですから、あなたには安全確保に注意する義務があります。しかし、どんなことでも引き受けたからには責任が伴うのは当然でしょう。あなたが子供スキーは有益だと思い、その指導ボランティアに興味をおもちなら、どうか尻込みせずに積極的に引き受けてみられてはいかがでしょうか。

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