法のくすり箱
Q、たまたま勤務先が同じビルにあることで顔見知りになった女性から、能楽教室の見学会と着物の新作の展示会があるので今度京都へご一緒しませんかと誘われました。私も日本の伝統文化に触れるのも一興と考え、約束どおり週末に京都へ出かけたところ、能楽は形ばかりで、すぐにあるビルの5階に連れ込まれ、しつように着物の購入を勧められました。私は話がちがうと思いましたが、その場の雰囲気にのまれて、つい、高価な着物を買うことに同意し、その場で契約書を書いてしまったのです。今さら断れないでしょうか?
A、あなたのいわれるとおりであれば、もともとあなたは商品(きもの)を買う気持ちはなかったのです。ところが、販売目的をかくして接近して一定の場所に出向くことを約束させ、約束どおり出向くと、営業所・喫茶店・展示会等へ連れ込んで強引な販売を行なう──このように、商品の購入を勧誘することを知らされずに、呼び出されたのなら、それも特定商取引法では訪問販売の一種とされ、こうした商法にもクーリングオフが適用されます(同法2条1項2号、同施行令1条)。
契約書をまず確認して下さい。クーリングオフの説明があるはずです。申込みから8日以内であれば、無条件で契約の撤回が可能です。クーリングオフとは、契約の申込みをしたり、契約を締結した後であっても、一定期間であれば、無条件で契約の申込みの撤回や契約の解除ができる制度です。この手続きは書面で行う必要があります。
また、気づいたときには、クーリングオフ期間の8日間を過ぎていたとしても、単純にあきらめることはありません。
消費者契約法では、営業所などで、消費者が帰りたいと意思表示をしても帰さないなど、自由な判断ができない状況で「困惑」して結んだ契約は、取り消すことができると定めています(同法4条)。あなたのケースもこれに該当するならば、6ヶ月以内であれば、取消しが可能です(同法7条)。
さらに、ウソをついて客をおびき寄せ、客の無知に乗じて売りつける等の事実が確認できれば、錯誤による契約の無効や詐欺による取消しや主張できることがあります(民法95・96条)。また、平成16年11月11日からは、特定商取引法が改正され、契約を左右するような重要な事項についてウソをついていれば契約が取り消せるほか、クーリングオフを妨害するような行為がもしあれば、期間をすぎてもいつでもクーリングオフできるなど、消費者にとって一層便利な改正も行われていますのでご活用下さい(くわしくはそよ風133号参照)。
場合によっては、商行為として許容される限度を越えているとして不法行為による損害賠償を問うことも可能であると考えます(民法709条)。なお、着物の買入にクレジット会社がかかわっているとき、あなたの業者に対する主張(抗弁)はクレジット会社に対抗でき、支払を拒むことができます(割賦販売法30条の4)。

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