法のくすり箱
Q、 最近、なぜか友人のAが、私の前科を町内で触れまわっています。12年前、私は、酒酔い運転で子供をひき逃げしたことで2年間服役しましたが、今はまじめに平穏に暮らしています。古い事件のことは知らない人も多く、私は今さらこのことに触れられたくありません。この問題について私のプライバシーはないのでしょうか?Aに対し、権利侵害として抗議することは可能でしょうか?
A、あなたには、刑事・民事の両面からの抗議が可能です。
まず前科は、あなたの名誉感情にかかわる個人情報であり、前科が事実であっても、それはあなたの社会的評価を害する事実です。Aの行為は、不特定多数に向けられたものとして、名誉毀損罪(刑法230条)が成立すると思われます。あなたの抗議には十分理由があります。
またあなたは、プライバシー権の侵害を理由に、Aに対して不法行為(民法709条)を理由とする損害賠償を求めることが可能です。プライバシー権は、他人に知られたくない私生活上の事柄を無断で公表されない権利であり、自分自身の情報を自分でコントロールする権利です。
ただ前科は、事件当時、新聞等で報道され、裁判も公開で行われます。そこで最高裁判所は、「事件それ自体を公表することに歴史的・社会的意義が認められるときには前科の公表が認められる」としています(平成6年2月8日判決)。しかし、おそらくあなたの前科は、公表されても仕方がないとされるような特別のものではないと思われます。あなたには、前科を公表されることを我慢すべき義務はなく、「前科を公表されない利益」が優越すると考えられます。
すでにあなたの場合は、服役後は、一市民として社会に復帰しており、前科の事実が公表されることで、新しく形成した社会生活の平穏が害されるのは必至です。しかもその前科には、公表して社会的な批判や評価の資料とすべき特段の事情もないケースであり、あなたはAに対して抗議が可能です。Aの行為がやまなければ、あなたは、前記の刑事・民事の法的手続きを執ることができます。
ちなみに、「個人情報」には、次のようなさまざまなものが含まれます。
- (1) 個人識別情報
- 氏名、住所、電話番号、性別、生年月日、職業など
- (2) 要注意情報
- (a) 医療・健康情報
- 健康状態、病歴、症状、検査結果、病名、治療法、身体特性など
- (b) 個人の経歴、社会活動
- 就学先、学歴、就業先、前科・前歴、外国人登録票、学業成績、勤務成績、懲戒処分歴、労組への加入など
- (c) 家族関係・交友関係
- 生活保護の受給、家族状況、交友関係など
- (d) 信用情報
- 収入、預貯金などの債権、所有する不動産・動産、債務、借入先、弁済状況など
- (e) 個人の内心の秘密に関するもの
- 趣味・嗜好、性格、人種、思想・信条、商品購入の履歴など

ホームページへカエル
「法のくすり箱」目次にもどる
次のページ(法のくすり箱「相続で生命保険金や死亡退職金の扱いは?」)へ進む