法のくすり箱
Q、私は先月、会社勤めの夫を暴走車にはねられて失いました。私たち夫婦には子どもがなく、どちらの両親もすでに亡くなっています。しかし、夫には結婚している妹が1人います。そこで、相続人は、私と夫の妹の2人ということになります。義妹は家計が苦しいらしく、権利として相続できる分は頂戴したいと申し入れてきました。夫が私にかけてくれた生命保険金や、会社からおりる夫の死亡退職金まで、妹に分け与えることになるのでしょうか?夫の死亡後、私は老後の不安でいっぱいです。
A、相続人が、妻であるあなたと夫の妹である場合、「法定相続分」は、あなた(妻)が4分の3、夫の妹が4分の1となっています。
亡くなった夫が生前所有していた財産は、原則としてすべて相続財産となり、あなたと夫の妹が「3対1」の割合で相続することになります。具体的な取り分を決めるには話し合い(遺産分割協議)が必要です。
しかし、あなたのケースでは、生命保険金や死亡退職金は、妻であるあなたのものとなり、夫の妹にはあたりません。
まず、亡夫が妻を受取人としてかけていた生命保険金は、契約者(夫)と保険会社との間の契約によって生じた受取人(妻)固有の権利とされ、相続財産ではないと考えられるからです。
また、死亡退職金(死亡に伴って会社から支給される退職金)も、会社の支給規程の定めにしたがって配偶者であるあなたが受領するなら、あなたの固有の権利として取得したものと考えられます。つまり、死亡者(夫)の収入に頼っていた遺族(妻)の生活保障を目的とするものと認められ、相続財産ではなく、受給権者たる遺族固有の権利とされているのです(最高裁3小昭和62・3・3判決、東京地裁昭和63・2・22判決)。
それから、夫を死亡させた交通事故の加害者に対する損害賠償請求権ですが、実務上、法定相続人が相続することとされます。したがって、妻であるあなたと夫の妹が、相続分に応じて「3対1」で権利を取得することになります。ただし、妻については、遺族固有の死亡慰謝料が認められています。くわしくは法律事務所への問い合わせをお勧めします。
ところで、この事例のような悩みを予防するのが遺言です。子のない夫婦の場合、一方が死亡したときは他の配偶者にすべて相続させる旨の遺言をしておけば、死亡した夫や妻の兄弟姉妹の相続への介入を避けることができます。被相続人の兄弟には遺留分が認められていないため、遺言どおり、残された配偶者がすべて相続することができるからです(民法1028条)。(「遺留分」についてはことば欄参照)
〜ことば欄〜
- ☆遺留分
- 「遺留分」とは、法定相続人のうち、配偶者・子供・親に確保されている一定の相続分のこと。配偶者・子供については法定相続分の2分の1が、親には3分の1が、それぞれ遺留分として定められている。もし、現実の相続分がこの遺留分に満たない場合には、他の相続人に対して、遺留分に足りない部分を請求することができる(遺留分減殺請求)。なお、被相続人の兄弟姉妹には、この遺留分は認められていない。

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