
法のくすり箱
Q、昨年、夫は妻の私の知らない間に、愛人A女との間に子供Bをもうけ、家を出て愛人親子(A・B)と同棲をはじめました。最近は私に生活費も渡さず、離婚を迫ってきます。私は、多年、夫の老母の介護につとめ、姑は2年前、私の手を握って感謝しながら死去したもので、夫の仕打ちは心外というほかありません。夫は、私とのこれまでの結婚8年の間に子供ができなかったから外に女をつくったといいますが、到底納得できません。どのようにすればよいのかと悩んでおります。
A、あなたが、目下のところ、夫と離婚したくないとお考えなら、その考えを通すことができます。
現在の法制度の下では、裁判によらないかぎり一方的に離婚することはできません。しかも裁判の場合でも、あなたの夫のような、自ら婚姻関係を破綻させた責任のある配偶者(有責配偶者)からの離婚請求は、原則として認められません(最高裁昭27.2.19判決)。ただし、夫との別居状態が15年も20年も続いて、完全に婚姻関係が失われたとみられるような事態となれば、例外的に離婚が認められる場合があります(最高裁昭62.9.2判決)。
裁判による判決離婚には、離婚原因((1)不貞行為、(2)悪意の遺棄、(3)3年以上生死不明、(4)精神病、(5)その他婚姻を継続しがたい重大な事由、民法770条)が必要であり、さらに離婚請求者は、有責配偶者であってはならないという、上記のしばりがかかるのです。
ちなみに、あなたに子供ができないという理由は、離婚原因には該当しません。また、裁判による判決離婚を求めるにも、直接離婚訴訟をすることはできず、まず家庭裁判所に調停による離婚の申立てをすることが義務づけられています(調停前置主義、家事審判法18条)。
逆にこのケースで、あなたが夫の離婚請求に応じてもよい、または、あなたの方から夫と離婚したいというお考えなら、離婚は協議による離婚届の提出によって簡単に可能です。
しかし、離婚と同時に行わなければ事実上実現が困難となりやすいものに、財産分与請求権と慰謝料の処理があります。
財産分与請求権とは、離婚した夫婦の一方が他方に対して財産の分与を請求することができる権利です(民法768条、771条)。夫婦で共同で作った財産の清算や離婚後の扶養、慰謝料の要素が一体となった権利として、離婚のときから2年以内に請求することが認められています。この協議が調わないときには、家庭裁判所に申し立てて協議にかわる調停や処分(家事審判法9条1項乙5号、17条)を求めることになります。
慰謝料は、当事者の一方の不法行為によって離婚するに至った精神的苦痛に対する損害賠償であり、財産分与とは別に請求することができます(最高裁昭46.7.23判決)。この慰謝料は、財産分与と異なり、話し合いが調わないときは、最終的には裁判(地方裁判所)で争って決着しなければならないのです。このほか、時効(民法724条)の関係で、離婚後3年間に請求するべきものとされる問題もあります。
ですから、離婚と引換えまたは同時に、財産分与や慰謝料も解決されることが肝要です。
最後に、生活費を渡さないとの点ですが、夫婦は離婚するまでは、婚姻費用を分担する義務があります(民法760条)。あなたから夫に請求しても応じないときには、家庭裁判所へ婚費分担の申立てをされることです。通常家庭裁判所は、これを婚費分担の調停として受け付け、調停が調わなければ審判に移行して夫の妻に対する一定額の生活費の支払を命ずることになります(家事審判法9条1項乙3号、17条、26条)。

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