
法のくすり箱
Q、先月、老父が死去し、遺言書が出てきました。母は10年以上前に死亡し、子供は姉と弟の私の2人です。遺言では、姉に多くの財産がいくことになっていますが、姉は、私ども夫婦がずっと父の面倒をみてきたことを承知しており、自分1人がそんなにもらうことはできないと言ってくれます。遺言どおりにしなくてもよいのでしょうか?
A、相続人である姉・弟の2人が合意すれば、遺言と異なる遺産分割をすることが可能です。
遺言は、遺言者が死後自分の財産の処分の仕方を指示するものですが、遺言で財産を受け取るよう指示された人が拒絶する場合にまで、無理に受け取らせることはできません。遺言者は、相続人らが遺言にしたがうことを期待しますが、相続や遺贈については、放棄したり、限定承認することまで認められています(民法922・938条)。したがって、常に遺言どおりに処分がなされるとは限りません。
高齢化とともに、分別の薄れた遺言者が、実情にあわない遺言をすることで、それまで仲のよかった兄弟姉妹が、「相続」を通じて「争族」となる弊害がしばしば問題となります。賢明な共同相続人(姉弟)の協議により、納得のいく遺産分割が実現できれば何よりです。
でも仮に、姉が亡父の遺言のとおりの相続を主張した場合ですが、弟のあなたは遺言に不服であれば、寄与分と慰留分の主張を検討してみることです。あなた方夫婦が老父を最後まで世話をやき介護した事実は、あなたが相続財産から一定の給付を受け取る理由(寄与分)になる場合があります(民法904条の2)。また、あなたの法定相続分は2分の1ですが、その2分の1(すなわち4分の1)の相続財産は、遺留分といって、遺言に優先して、あなたに確保されます(民法1028条)。
寄与分や遺留分の話合いが、共同相続人間でスムーズにいかないときには、家庭裁判所へ遺産分割調停を申し立てられることをおすすめします。
(「限定承認」「寄与分」「遺留分」についてはことば欄参照)
<ことば欄>
- ☆限定承認
- 相続に際し、プラスの財産だけでなく、負債などマイナスの財産も、すべて相続するのが「単純承認」(通常の相続はこれに当たる)。これに対し、すべてを放棄するのが「相続放棄」。そして、プラスの財産の範囲内で、負債なども負担する相続を「限定承認」という。
相続財産が明らかに債務超過の場合は「相続放棄」が適するが、債務超過のおそれはあるがはっきりしないときには、この「限定承認」をしておけば、清算した結果、もしプラスの財産が残ればこれを相続できる。相続放棄・限定承認ともに、家庭裁判所で手続きをする必要がある。
- ☆寄与分・遺留分
- 「寄与分」とは、共同相続人の中に、労務の提供・財産上の給付・療養看護など、被相続人の財産の維持・増加について特別の寄与をした者があるときに、その寄与した相続人に対して、相続分以上の財産を取得させる制度。たとえば、長男が家業を担ってきたので家産が維持・増大したケースや、長男の嫁が舅・姑の介護に尽くしたケースなどでは、長男の「寄与分」が認められる。
「遺留分」とは、法定相続人のうち、配偶者・子供・親に確保されている一定の相続分のこと。配偶者・子供については法定相続分の2分の1が、親の場合には3分の1が、それぞれ「遺留分」として定められている(民法1028条)。ただし、被相続人の兄弟姉妹には、この遺留分は認められていない。
なお、「寄与分」「遺留分」ともに、現実の相続分がこれを留意していない、満たしていないときには、当該相続人が、家庭裁判所に調停を申し立てることにより、他の相続人に対して、その部分を請求することができる。

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