
法のくすり箱
Q、夫は定職にもつかず、それを口にすると暴力をふるって、とうとう家を出てしまい2年経ちました。その間、何の連絡もなく、居場所もまったくわかりません。私はすぐにでも離婚したいと思うのですが、現状ではどうすることもできないのでしょうか?
A、離婚は、すぐに訴訟を起こすことはできず、まず、家庭裁判所へ調停を申し立てて、そこで話し合わなければなりません(調停前置主義)。
しかし、あなたの場合、相手の居所がわからないのですから、話し合うことができないのは明らかです。そこで、例外的に、調停手続きを経ずに、直接地方裁判所へ離婚請求訴訟を起こすことができます(家事審判法18条2項)。手続きは次のようになります。
まず、判明している限りで最後のご主人の住所地を管轄する地方裁判所へ、離婚を申し立てる訴状を提出します。通常、裁判所はこの訴状を相手方に送り、裁判への出頭を促します。
しかし、あなたの場合のように、相手方の居場所がわからないなど、訴状等を相手方に届けることが不可能な場合には、裁判所にその旨を申し立て、裁判所がこれを認めれば、裁判所が訴状等を保管している旨の書面を裁判所の掲示板に掲示し、2週間を経過すれば、訴状が送達されたとみなされる措置がとられます(公示送達、民事訴訟法110〜112条)。
あとは、相手方の出廷がなくても裁判は進行し、あなたが提出する主張と証拠により、客観的に判断されて判決が下されます。あなたの言い分が正しく、悪意の遺棄があったと認められれば、離婚は認められるでしょう(民法814条1項1号)。
このように、公示送達の手続きは、相手方の意見をまったく聞かずに一方的に裁判が進められるわけですから、希望すれば簡単にできるわけではありません。
ま ず、この公示送達の申立には、資料を添付して、相手の居所がほんとうに不明であることを証明しなければなりません。住民票・戸籍の附票などのほか、警察への捜索願、返送されてきた手紙、親類・友人等への問合せの結果、実際に出向いて調べた報告等々をつける必要があります。もちろん、単に住所票の住所にいないなどでは足りません。勤め先や立ち回り先がわかれば、そこに訴状等は送達されることになります。書留郵便を使ったり、必要に応じて、早朝や夜間に執行官に出向いて送達してもらう方法をとられます。
また、たとえ相手が海外にいても、それだけでは公示送達は認められません。戦争や自然災害などの影響で送達できない、あるいは、大使館などに嘱託して6ヶ月以上経過しても送達できない場合に、はじめて公示送達が認められるのです。
このように、できる限りの方法で相手方に訴状等を届ける努力が払われます。

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