
法のくすり箱
Q、私の家の敷地内に3本の樹木があり、隣家との境界に接して繁っています。このたび隣家から、「枝や根が自分の敷地に侵入している。土地の有効利用の妨げになっているから3本とも撤去してほしい」と申入れがありました。3本の樹木は、近隣の人たちに私道として通行してもらっている場所にあり、永年、多くの人に愛されています。どうしたものでしょうか?
A、境界線を越えた木の枝や根があるときには、これらを伐採することが原則です。しかし、隣家との境界線を越えていない、あなたの敷地内に生育している「樹木そのもの」が、隣家の撤去請求の対象となることはありません。
くわしくいえば、まず、「枝」については、隣地の所有者はあなた(樹木の所有者)に対して、境界線を越えた木の枝を切るようにと請求できます(民法233条1項)。あなたが応じないときには、裁判所に対して、あなたの費用で第三者に枝を切らせることを請求できることとなっています。大げさかもしれませんが、この場合は裁判になります(414条2項)。
しかし、どんな場合にも枝を切らなければならないわけではありません。隣地の所有者が、この枝のために重大な損害を被ったか、そのような損害を被るおそれがある場合にのみ請求ができるものと解されています(通説)。少なくとも、何らの損害も受けないのに、枝を切れと請求することは、裁判でも認められません(権利の濫用)。
次に、「根」についていえば、根の場合には隣地の所有者は、樹木の所有者の承諾を得ないでこれを切り取ることができるとされています(233条2項)。民法は、「枝」に比べて「根」は重要でないと考えたのかもしれません。しかし、根の場合も、何ら特別の損害もないのに切り取ることは権利の濫用で許されないとされています。
隣家の「土地の有効利用の妨げ」となっているとの申し出に、相当の理由があると認められるならば、「枝」や「根」に限り、伐採を承諾しなければなりません。その際にも、まず、どのような範囲の伐採でよいのか、お互いに協議するのが順序であると考えられます。
話し合いがつかない場合、あなたの義務は、境界線を越える「枝」を切ることです。それ以上の義務は生じません。
「根」の裁断は隣家の権利ですが、これにより高価な樹木を枯らすと「権利の濫用」となり、隣家に賠償責任が生じます。隣家も裁断には相当の注意が必要です。あなたも根の裁断に対応して枝を剪定して樹木の負担を軽減するなど、樹木の養生にご留意されてはいかがでしょう。

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