
法のくすり箱
Q、私は老母とともに借家住いをしています。近ごろ母の足取りがおぼつかなくなったので、借家をいわゆるバリアフリーに改造したいと考え、先日、家主に電話をしたところ、家主はなるほどねと了承してくれました。そこで工事にとりかかったところ、意外にも家主からクレームがつきました。家主は、自分はまだ承諾していないし、借家契約書によれば、承諾のない改造や模様替えは禁止しているというのです。工事人に対しても今さら中止せよとはいえないのですが、どうしたものでしょうか?
A、借家人による借家の無断改造等を禁止し、家主の承諾があったときにのみこれを許す旨の条項は、借家契約書にしばしばみられるところです。
あなたは、家主の承諾を得たと考えているのに、家主はこれを争う場合には、あなたの方で承諾を得たことを証明してみせなければなりません。承諾の書面があれば立派な証拠ですが、おそらくないことでしょう。しかし、電話のやりとりを録音できていれば証拠に使えます。その電話の際に、居合わせた友人が事情を聞いていれば、証人として役に立つかもしれません。
しかし、通常は、「承諾した」「しない」の水かけ論になるため、承諾があったことを証明することは容易でありません。
承諾を得ていることの証明が困難な場合の現実的な解決としては、あなたとしては腹立だしい気持ちを抑えて、家主に思い違いだったかもしれないと詫び、もう着工してしまっていること、不要になったら原状に戻すこと、改造の承諾料としていくらかをお支払いすること等を家主に交渉して、工事の続行の許可を得ることです。
承諾を得ている証明がなんとか可能だと考えるときには、「ご承諾があったのでもう工事を着工してしまいました。何卒お許しください」と口上を述べて工事を続行してください。工事の続行に対して家主はこれをストップする手続(工事続行禁止の仮処分)を執ることが可能ですが、その手続において工事の続行が禁止となるかどうかは、家主の承諾の証明が成り立つかどうかにかかります。
しかし、裁判所は、多くの場合、双方の話し合いによる(1)承諾料の支払い、(2)不要時期の原状回復などを条件とする和解を強くすすめてくれます。
また、このような家主との交渉や話合いの中でも工事が進み、結果的に、家主の承諾のない改造工事が完成してしまったとします。そのような場合に、家主が契約解除・明渡し等を求める訴訟をおこしてきたときに、はたして家主の請求が認容されるかどうかですが、借主が家賃をきちんと支払い、将来原状に戻す意向を示すものである限り、まだ、借家契約の信頼関係は破壊されていないものとして、賃貸借の継続が認められることが多いと思われます。

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