法のくすり箱
Q、多年私は借家住まいを続けてきましたが、先日、私の不注意により出火し、借家は全焼。隣家までも類焼させてしまいました。そのため只今、家主と隣人から損害賠償を請求されています。家財を失った私自身の損失も少なからぬ折、これらの請求にすべて応じなければならないのでしょうか?
A、隣人に対しては、あなたに重過失があった場合にかぎり賠償の責任がありますが、家主に対しては、過失の軽重にかかわらず責任を負うことになります。
まず、あなたは借りている家を焼いてしまったのですから、貸主である家主さんに対する損害賠償責任は免れません。なぜなら、借主には賃貸期間を終了した時点で、そっくり家主に返還する契約上の義務があり、あなたはこの義務を履行することが不可能になったわけですから、民法上、債務不履行の規定による賠償の責任があります(415条)。
次に、隣人に対する関係ですが、あなたの過失によって類焼の被害を及ぼしたのですから、これは、一般的には、民法の定める不法行為に該当し(709条)、あなたは賠償の責任を免れないところですが、失火による類焼の被害者に対し、つねに賠償の責任を追求すれば、失火者の生活・人生を崩壊させる過酷な結果が予想されること、及び、失火の危険は、通常、誰にでもあること等々の点を考慮し、とくに、失火の責任に関する法律という特別の法律が制定されています。この法律によれば、失火者に「重大ナル過失」があるときにかぎり、その賠償責任を追求しうるものと定めています。
重過失としては、たとえば、火気の近くで揮発性物質を使用したり、残火のある灰をダンボール箱に投棄したりして出火した場合(いずれも判例。くわしくはミニ解説参照)などが考えられます。
あなたのケースでは、単なる失火で軽過失の域にとどまるものと思われます。
だからといって、隣人が類焼の被害を受けた事実には変わりがありません。あなたは、道義的に謝罪するだけではなく、可能な範囲でたとえわずかでも損害賠償の誠意をみせることが望ましい次第です。
<ミニ解説>
「失火責任を問われる“重過失”」
失火は、故意や常習性の問題ではなく、誰にでも思いがけず起こりうる事故です。日常、老若男女を問わず、ガスコンロ・煙草・電気ごたつ・ガスストーブ等々、火を取り扱う機会は少なくなく、そのため火の使用に際しては、いつも相応の注意が払われねばなりません。著しい不注意の結果火災が発生したのであれば、重過失として、失火責任法上も不法行為を理由とする損害賠償責任を免れません。
重過失による失火とは、わずかな注意さえ払えば火事になることが容易にわかる場合であるにもかかわらず、漫然とこれを見過ごして火災が生じたケースをいいます。
このような重過失にあたる場合として、次の事例を参考にして下さい。
- 風の強い日に、住居が密集している住宅街の庭でゴミを焼却していたところ、隣家に火の粉が飛んで出火。
- ガスコンロに天ぷら油の入った鍋をかけて加熱したまま部屋を出ていったところ、天ぷら油に引火して火災が発生。
- 石油ストーブの上の棚に可燃物を置いたまま外出したところ、ストーブの火が引火して火災。
- 紙屑の入ったダンボール箱に、まだ残り火のある石炭ストーブの灰を投げ捨てたために発火して燃え移った。
- タバコを吸いながら石油ストーブに給油したところ、給油口から石油があふれ、落ちたタバコの火で引火したが、恐くなって逃げたため火が天井に燃え移った。
- 厳冬のため、ベットのふとんにくるまりながら、電気ストーブの火をつけたまま就寝するのを常としていたが、その夜、ずり落ちたふとんが電気ストーブにさわり発火して火災。

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