法のくすり箱
Q、先日、家を留守にした際、戸締りをきちんとしなかったため、誰かに入られた形跡がありました。幸い、貴重品等何も盗まれていないようだったので届出もせず放置していました。ところが、昨日、電話情報サービス会社と称する者から、私あてに法外な利用料金の請求がきてあわてています。家族に聞いても誰も心当たりはなく、問い合わせたところ、どうもこの情報サービスに登録した日にちが、例の留守にした日のようです。きっと、わが家に侵入した者が登録したに違いないと思います。こうした場合、私には支払う義務があるでしょうか?また、どう対処すればよいでしょうか?
A、結論からいえば、あなたに支払う義務はありません。侵入した他人が情報サービスに登録して利用したのであって、あなたと業者の間には有料情報の提供契約は何ら成立していないからです。契約が成立しない以上、支払う義務も生じません。あなたが当該電話の契約者であるとしても、それは別問題です。
アダルト番組を聞くダイヤル、見知らぬ異性と話をするいわゆるツーショットダイヤル等々、さまざまな電話情報サービスがありますが、これを利用する際の手続きは一般に次のとおりです。
- 利用者がサービス業者に電話をかけ、アナウンスの指示にしたがって自分の電話番号をダイヤルする。このとき業者から暗証番号を教えられる。
- 折り返し業者から先ほどダイヤルした電話番号に電話がかかるので、これをとり、教えられた暗証番号をダイヤルする。
- これで登録手続完了。
- 以後、利用するときは、業者に電話をかけて、登録した電話番号と暗証番号をダイヤルする。
- 利用時間に応じて、業者から情報料の請求がされる。
この情報サービスは、登録した電話番号と暗証番号さえ用いれば、以後、どの電話からでも利用できる仕組みになっています。つまり、登録さえすれば、あとはどの電話機からかけようが、最初に登録した番号に料金の請求がくるのです。侵入者はこの仕組みを熟知しており、あなたの電話で登録だけ済ませ、あとは別の電話からサービスを利用しつづけたものと考えられます。
あなたとしては、前述のとおり、支払義務はありません。もし業者がしつこく請求を繰り返し、「たとえあなたが利用していなくても、あなたには電話機の監督義務がある」などと言ってきても、一切応じる必要はありません。むしろ業者の側が、自らの費用と責任で実際の契約当事者(侵入者)を見つけ出し、その相手に情報料を請求すべきなのです。たとえば、同居の子が親に無断で情報サービスを利用した場合でも、親には情報料の支払義務はないという判例もあります(H6・8・10大阪高裁、H10・9・10札幌高裁など)。あなたは、断固として請求を拒絶するべきなのです。
しつこく請求を繰り返す業者に対しては、支払に応じる義務はない旨を内容証明郵便で通知することが有効でしょう。この際、あらかじめ警察に住居侵入の被害届を出しておき、その受理番号なども明記すればより安心です(右の文例参照)。
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これと同じような電話による情報サービスとして、NTTのダイヤルQ2があります。これについては以下をご参照下さい。
☆ダイヤルQ2
情報提供者が電話を通じた有料情報サービスを行い、NTTがこれに代わって情報料を回収するシステム(情報料回収代行サービス)。
10年ほど前から、ダイヤルQ2により多額の料金が請求されるトラブルが多発して社会問題となった。公共性をもつ電話事業者(NTT)が、ほとんど社会的に無価値な情報を法外な値段で思慮分別に欠ける青少年に売りつける業者の利益を図り、同時にこれにより自身の通話料と手数料収入を得ようとするのは、社会の健全な常識に照らして容認できないとして、子が親に無断で利用したダイヤルQ2について、情報料はもちろん通話料も支払義務はないとの判決も出ている(大阪高裁H6・8・10)。
NTTでは現在、不良番組の締出し・特定者だけが利用できるシステム・ダイヤルQ2につながらないサービス等を行っている。また、電話料金請求書の内訳にダイヤルQ2情報料の記載がなされるので、NTTに連絡して事前に引き落とさない旨を申し出ることもできる。

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