法のくすり箱
Q、会社を退職した夫に私の知らなかった多額の借金があることが分かりました。それまで、債権者が会社の方へ請求していたので分からなかったのです。しかし、夫の退職に伴って債権者が直接自宅にやって来るようになり、夫はこれを嫌がったのか、私に行き先も告げずに家を出てしまいました。ときどきどこかから電話してきますが、居場所は分かりません。ところが先日、夫は、ここで一旦「離婚」の形をとろうと提案してきました。理由はときくと、私が父から相続して私名義となっている自宅を債権者にとられないためだというのです。私はすぐには返事ができないと言いましたが、問題はないのでしょうか?
A、このように、本当は離婚する気持ちがないのに、財産の保全のために、いわばなれあいで離婚することが、法律的に有効かどうかは問題があるところです。しかし実務の取扱いとしては、協議の上で役所へ離婚届を出したという形さえ整っていたなら、役所は離婚届を受理し、協議離婚が成立することになります。さて、夫の負債は、離婚などするまでもなくあくまで夫個人の負債なのです。たとえ夫婦であっても、法律的には、妻は夫とは別人格です。妻が夫の多額の借金を、夫の債権者に支払ういわれはありません。夫の債権者に対しては、毅然として支払いを拒否し、夫の債務は夫の責任だから、必要なら法的手続きをとってくれときっぱり断って下さい。それでも夫の債権者が妻のあなたにつきまとうようであれば、警察・弁護士会・法律事務所などへご連絡ください。
またシビアな心得ごとですが、あなたの実印や印鑑証明などの管理には注意が必要です。それらが夫によって勝手に持ち出されて、あなたが知らない間に夫の借財の連帯保証人にされてしまうことがあるからです。すでにあなたの実印や印鑑証明が勝手に使われている場合、もちろんそれは無効ですが、場合によっては保証された債権者との間でその効力を争う裁判になることがあります。
最後に、「日常家事債務」の問題にまどわされないように。これは、夫婦で生活する上の電気代・食事代など日常的な支払債務については、夫婦は連帯して支払わなければならないというきまりがあり、それをたてにとって債権者が妻も責任があると主張する場合があるのです。しかし、あなたの夫のような多額の日常の家事と関係のない債務は、日常家事債務ではなく、まったく夫自身の負債です。日常家事債務の支払いに名を借りて妻に支払いを求めることがあっても、取り合わないようにしてください。
このような次第ですので、あなたに離婚する意思がないのに離婚をよそおうことは不要です。蛇足ながら、夫の方に隠れた愛人がいて、あなたと離婚してこの愛人と一緒になろうとしているようなケースも仮定の話としては考えられなくもありませんのでご留意ください。また、もしほんとうに離婚するお気持ちがおありなら、夫の退職金等を含む財産分与や慰謝料についてきちんと協議されたうえで離婚されることをおすすめします。

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