
法のくすり箱
Q、私はアパートを所有していますが、借家人のA夫婦が1年前から家財道具をおいたまま行方不明になってしまいました。A夫婦に貸している部屋を明け渡してもらい、他の人に貸したいのですが、この場合、どうしたら契約を解除できますか?
A、普通、契約を解除する場合は書面で、それも後日の証拠のために内容証明郵便で解除の意思表示をしますが、あなたの場合のように、相手が所在不明のときには「公示」の方法によって意思表示をします(民法97条の2)。
まず、相手方の最後の住所地──本件ではあなた所有のアパートのあるところ──の簡易裁判所に公示の申立てをします。このとき申立書類に、1年の滞納家賃をいつまでに支払われたいという催告をすると同時に、指定した期日までに支払わなかったときは賃貸借契約が解除となる意思表示をしておけばよいでしょう。
申立てをうけた裁判所は、相手方の所在を知ることができないかどうかを一応審査して裁判官の許可を得た上、書記官が申立書類を保管し、いつでも相手方が出頭すればこれを交付する旨を裁判所の掲示場に掲示し、かつその掲示があることを官報及び新聞紙に少なくとも一回掲載します。
そして公示された日の翌日から2週間を経過すると、あなたの意思表示が相手方に到達したという効力が生じるので、指定期日に滞納家賃が支払われなければ契約が解除され、A夫婦はあなたのアパートを使用する権利がなくなり、家を明け渡さなければなりません。
しかし、契約が解除されたといっても、勝手に家に入って家財道具を持ち出してしまうことは許されません。そこで、次にあなたは、裁判所に明渡しの訴訟を起こせばよいわけですが、何分相手は所在不明なので、この場合も同様に公示送達の許可を得て訴訟手続きを進行させ、判決を得て強制執行してもらうことになります。
もっともA夫婦の親族や親しい友人などがいる特別の場合には、これらの人に連絡していつでも引き渡すことを通知し、その後家財道具を持ち出して他所で保管しておき、部屋は別の人に貸すというやり方がとられることがあります。これは必ずしも適法とは言い切れませんが、公示手続や裁判が専門家の関与なくしては事実上困難であるだけに実際的処理の限界として、事例によっては、単純に非難しきれないところです。

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