借家人・借地人の住み続ける権利を保護

阪神大震災に『罹災都市法』が適用

☆平成7年2月6日施行☆

 平成7年1月17日早朝、神戸市など阪神地区を中心に甚大な被害をもたらした大震災によって、多くの人びとが借家や借地上の家を失いました。これらの人びとの生活の基盤である土地・建物の賃貸借の崩壊を防ぎ、災害からの生活再建に資するため、被災地域に対して、借地借家に関する特別法「罹災都市借地借家臨時処理法」が平成7年2月6日付をもって適用されることになりました。

第2次大戦後の戦災復興の法律を活用

 罹災都市借地借家臨時処理法(罹災都市法)は、第2次世界大戦当時に空襲などで家を焼かれ、借地・借家権をなくした人びとのために昭和21年に制定されました。
 戦災で多数の建物が失われ、多くの人びとの生活の本拠が失われることになったために、借地・借家をめぐる諸問題について臨時の処置を定めて関係者の権利の調整をはかり、混乱の発生を未然に防止しようとした法律です。被災者がそれまで住んでいた場所にできるだけ住み続けられるよう保護することを主眼としています。
 その後改正され、政令により本法を適用する旨が定められた火災・震災・風水害等の災害にも適用されることとなりました(25条の2)。大規模災害の場合の借地借家に関する、いわば恒久的な特別法として位置づけられている法律といえます。
 たとえばこれまでにも、第2室戸台風による風水害(昭和36年9月)、新潟大震災とそれに伴う火災(昭和39年6月)、近畿・中国の水害(昭和42年7月)、山形県酒田市の大火事(昭和51年10月)など25件で適用されています。
 今回政令で指定されたのは、平成7年の兵庫県南部地震に係る震災及びこれに伴って起こった火災で、対象とされる地域は別表のとおり、大阪府と兵庫県の33市町に及んでいます。

罹災都市法が適用された地域
大阪府兵庫県
大阪市・堺市・岸和田市・豊中市・
池田市・吹田市・高槻市・茨木市・
泉佐野市・大東市・箕面市・高石市
神戸市・尼崎市・明石市・西宮市・
洲本市・芦屋市・伊丹市・宝塚市・
三木市・川西市・播磨町・津名町・
淡路町・北淡町・一宮町・五色町・
東浦町・緑町・西淡町・三原町・
南淡町

建物がなくなっても借地・借家の権利は残る

 現行の「借地借家法」(そよ風60号参照)では、賃貸のアパートなどに住んでいる借家人の場合、建物が滅失すれば同時に借家権は滅失します。しかし、罹災都市法が適用されれば、後記のとおり、地主が元の土地に建物を建てた場合に、借家人は優先的に賃借できるほか、建物が建たない場合も土地を優先的に賃借できるのです(14条、2・3条)。
 また借地人の場合には、後記のとおり、借地権の登記がなくても、5年間は第三者に権利を主張する対抗力を持つことができます(10条)。また借地期間も、後記のとおり最低10年に延長されます。

借家人の場合新築建物に優先的入居
借地権の譲受けも可能

 まず、借家を借りていた場合です。
 通常、災害によって滅失した建物にいた借家人は借家権を失うのが原則です。しかしこの法律が適用されることによって、土地所有者などがその敷地(あるいは換地)に最初に建てた建物について、その建物の完成前に賃借の申出をすれば、相当な借家条件で他の者に優先してその建物を賃借することができます。このとき土地所有者らは、自らが建物を使用する必要があるなど特別な正当事由があれば、この申出を受けた日から3週間以内に拒絶の意思表示をすることによって借家権の設定を拒むことができます(14条)。
 また、敷地の所有者や借地人(家主)がまだ建物の建築に着手していないときには、政令施行日から2年以内(平成9年2月5日まで)にその所有者または借地人に対して申出をすることによって、相当な対価で、優先的に借地権の設定や借地権の譲渡を受けることができます。このときの借地期間は10年となります(ただし合意によりそれ以上も可能、5条)。一方、土地所有者または借地人は、自ら建物を建てる予定があるなど正当な事由があれば、申出から3週間以内に拒絶の意思を表示して、借地権の設定や譲渡を拒むこともできます(2・3条)。さらに、こうして借地権を得たにもかかわらず、1年を経過しても正当な事由もなく建物建設に着手しなければ、土地所有者・借地人は借地権の設定・譲渡契約を解除することができます(7条)。

借地人の場合登記なしでも権利確保
借地期間最低10年保証

 次に借地人の場合です。
 通常なら、借地上の建物の登記をしていれば、たとえその建物が滅失したとしても、借地権があることを、土地の譲受人その他誰に対しても主張することができます(これを「第三者に対抗できる」という)。しかしこの登記がなければ、建物が滅失した場合、借地権自体はなくならないものの、現実には第三者に土地が譲渡されてしまえば、この第三者には対抗できなくなります(権利が主張できない)。そこでこの法律では手当てが定められ、罹災前から借地権を有している人は、政令施行の日から5年間(平成12年2月5日まで)は、たとえ借地上の建物の登記がなかったとしても、借地権を第三者に対抗することができるものとしています(10条)。
 また、借地権の残存期間が10年未満である場合には、建物の再建を容易にするため、この残存期間を政令施行の日から10年間(平成17年2月5日まで)に延長することとなります(11条)。もちろん、地主との協議でそれより長い期間を定めることもできますし、また10年たったところで更新することも可能です。

紛争には裁判所が関与
調停の手数料は無料

 借家人が新しい建物に入居したり、あるいは自分で建物を建てるために借地権を設定する際には、敷金・賃料等の賃借の条件を定めることが必要です。また旧家主から借地権を譲り受ける場合には、譲受けの条件を定めることが必要です。こうした賃借条件の適否をめぐって当事者の協議では決まらないことも生じましょう。また前述の借地権の設定・譲渡をめぐって、地主・家主が拒絶したときその「正当事由」をめぐって争いが発生することも考えられます。
 こうした争いについては、裁判所に裁判を求める申立をすることができます。裁判所は、鑑定委員会(3人以上の専門家あるいは当事者が合意選定)の意見を聴くなどして、一切の事情を考慮して、当事者間の法律関係を定めることとされています(15〜17条)。
 また、裁判所に対して、調停の申立をすることもできます。この際、裁判所に納める調停手数料は、震災が原因で起きた紛争については平成9年3月31日まで免除することが決定されました。
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具体的な事例について、法のくすり箱でいくつか取り上げています。どうぞご参照下さい。

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