
☆☆労働基準法の一部改正☆☆
高度な専門職・高齢者の労働契約 最長3年に延長
労働条件は書面で交付
年休日数さらにアップ
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昨年「労働基準法」の一部が改正され、本年4月1日より施行されています。このうち、「男女雇用機会均等法」をめぐって時間外労働の上限基準が定められたことについては、前号でくわしく説明しました(そよ風98号参照)。今回は、それ以外に行われた改正の主な点をいくつか簡単にとりあげましょう。
長期にわたる労働契約を結ぶことは、労働者の人身を不当に拘束することになりかねないとの判断から、労基法では、労働契約に期間を定めるときには1年までとするという規定があります(建築工事など有期の事業については除く)。たとえば、パートや臨時工・季節工などにみられるのが、この期間の定めのある労働契約です。
今回の改正で、一部の労働者については、この契約期間を最長3年まで認めることになりました(法14条)。対象となるのは次の3つの場合です。
- 新商品・サービス・技術などの開発や科学に関する高度な専門的知識・技術・経験をもつ労働者を新たに雇う。
- 新規事業を立ち上げたり不振部門を整理するために高度な専門的知識をもつ労働者を新たに雇う。
- 満60歳以上の労働者を雇う。
表1 高度な専門的能力とは?
(労働省告示より)
(1) 博士号取得者
(2) 修士号取得者で3年以上の実務経験をもつ者
(3) 公認会計士・医師・歯科医師・獣医師・弁護士
・一級建築士・薬剤師・不動産鑑定士・弁理士・
技術士・社会保険労務士
(4) 特許発明の発明者・登録意匠を創作した者・登
録品種を育成した者で5年以上の実務経験をもつ者
(5) 国等より能力が優れたものと認定され、(1)〜(4)
に準ずるとして労働基準局長が認める者で5年以上
の実務経験をもつ者 |
このうち、高度な専門的知識等を有すると判断されるのは、別表1のいずれかに該当する者に限られます。また、1・2で雇われた労働者も、契約を更新する際には、原則にもどって契約期間の上限は1年となります。一方、3の場合に限っては、雇用機会の少ない高齢者の雇用を安定させるためにも長期契約は望ましいと考えられ、更新する際にも同じく3年までの契約期間をもうけることができるとされました。
労働契約を結ぶ際には、当然ながらさまざまな労働条件が明示されなければなりませんが、このうち書面での交付を必要とする事項が拡充され、次のようになりました(法15条1項)。
(1) 就業の場所・従事すべき業務
(2) 始業終業時刻・残業の有無・休憩時間・休日・休暇
(3) 賃金の決定・計算・支払方法、締切り・支払時期
(4) 退職に関する事項
(5) 期間の定めのある場合はその労働契約の期間
ちなみに、就業規則を定めている事業所では、当該就業規則を交付するとともに上の(1)・(5)を書面で交付すればよいことになります。
また、退職の際には、労働者が請求すれば証明書の発行が義務づけられていますが、退職の事由が項目として追加されました(法22条1項)。したがって退職時に請求できる証明事項は以下のとおりとなります。
〔1〕 使用期間
〔2〕 業務の種類
〔3〕 その事業における地位
〔4〕 賃金
〔5〕 退職の事由(解雇の場合にあってはその理由を含む)
今回の改正では、年次有給休暇の引上げも行われ、これまでは1年6ヶ月以上継続勤務していれば1年ごとに1日ずつ年休が増加することとされていましたが、この4月より、勤続年数が2年6ヶ月を超えると1年ごとに2日ずつ増加することとしました(法39条2項、135条。段階的に実施し、平成13年度で達成。ただし最高20日まで)。
近年、職場を変わることも珍しくない状況に対応して、勤続年数の長さで年休の日数に大きな差が出ないようにするための施策です。具体的な付与日数は表2のとおりです(ただし、週所定労働日数が4日以下、または1年間の所定労働日数が48日〜216日のパートについては、別の基準があります)。
表2 年次有給休暇の付与日数 〔一般の労働者の場合〕
勤続年数 |
6ヶ月 |
1年
6ケ月 |
2年
6ヶ月 |
3年
6ヶ月 |
4年
6ヶ月 |
5年
6ヶ月 |
6年
6ヶ月 |
7年
6ヶ月 |
8年
6ヶ月 |
9年
6ヶ月以上 |
年
休
の
日
数 |
平成11年度 |
10日 |
11日 |
12日 |
14日 |
15日 |
16日 |
17日 |
18日 |
19日 |
20日 |
平成12年度 |
10日 |
11日 |
12日 |
14日 |
16日 |
17日 |
18日 |
19日 |
20日 |
20日 |
平成13年度〜 |
10日 |
11日 |
12日 |
14日 |
16日 |
18日 |
20日 |
20日 |
20日 |
20日 |
※ パートタイマー(勤務日数が少ない場合)の年休については別の基準がある。
労基法では、職場での休憩時間は一斉にとることが義務づけられています(法34条2項)。ただし、商店・銀行・病院・旅館など休憩を一斉にとることが困難な一定の業種については、労働基準監督署長の許可を得てこの適用が除外されました(規則31条)。これは、交代で休憩をとると、つい見かねて手伝ったり、手伝わないまでも心理的に十分な休憩がとれないことが経験的にわかっているからです。
今回の改正でも、従来どおり一斉休憩の原則はあくまでも残されました。しかし上の例外業種に加えて、業務の形態によって一斉休憩が無理な場合(フレックスタイム制・みなし労働など)にも柔軟に対応できるよう、労基署長の許可制を廃止し、休憩時間についての労使協定を結べば一斉に付与しなくともよいこととしました。
これまで労基法は、適用される事業を、法の中で具体的に並べて定めていました(法8条1〜17号)。これは、法の一部についてさまざまな適用除外があったため、それを個々に規定する必要もあってなされていた措置です。
しかしこれでは、社会経済変化のなかで生まれた新たな事業が、一時的に労基法の適用外になる可能性があります。一方、男女雇用機会均等法の改正に伴い、労基法の中の女性労働についての各種の保護規定が廃止され(くわしくはそよ風98号)、事業の種類を並べて適用除外を規定する必要性も少なくなりました。そこで、この羅列を廃止し、労働者を使用するすべての事業について(ただし、同居の親族のみの事業所は除く)、労働基準法を適用することとしたものです(法116条)。そして、法の一部について適用除外がある事業については、法の最後に別表という形でまとめることとしました(法別表第一)。
* * *
このほか、労働基準法の中の、変形労働時間制・裁量労働制についても改正が行われています。これらは次号でとり上げる予定です。


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