開発事業―道路・ダム・飛行場・発電所etc.
環境にやさしいベストな計画とするために

環境アセスメント法の制定

平成11年6月12日全面施行


環境アセスメントとは



 道路・ダム・発電所・空港などといった開発事業は、環境を大きく傷つけるおそれがあるため、これらの事業を行う際には環境の保全に十分に配慮することが非常に重要です。
 そのため、環境への影響について事前に科学的な調査・予測・評価を行い、その結果を公表して地域住民や地方公共団体などの意見を聞いて事業の内容を決定する、という手続きが行われねばなりません。これが、「環境影響評価(環境アセスメント)制度」といわれるものです。

開発追認からよりよい環境の追求へ


 1970年代初めより、わが国においてもこうした制度の導入が検討されてきました。しかし法律の制定にはいたらず、これまでは閣議決定や各省庁の決定に基づいた「行政指導」という形で、あるいは各地方自治体が独自の条例などでこの環境アセスメントを実施してきました。
 ところが、開発事業の内容がほぼ固まった時点で行われるため、事業計画に反映されないただの追認にすぎないとの批判が強く、また、その視点も、国の決めた環境基準をクリアしているかどうかだけを問題にするなど、きわめて不十分な内容となっていました。
 近年、地球環境を含め環境問題への関心が深まるなか、透明公正な形で環境アセスメントが行われるよう、平成9年(1997年)、法制化がようやく実現したものです。
 この新法「環境影響評価法」では、できるだけ早い段階で環境アセスメントの手続きをはじめて、開発事業の内容にその結果を反映できるように配慮することとし、さらに環境基準をクリアしているかどうかに止まらず、できる限り環境への影響を小さくしたベストの事業計画となるかどうかが問われることになります。

大規模事業は必ず実施
   中規模事業は個別に判断


 本法の対象となる事業は、国が関与する事業のなかで、規模が大きく環境に著しい影響を及ぼすおそれがあるものに限られます。国が関与するとは、直接国が行う事業のほか、国が出資する特別法人による事業や、国が当該事業に免許・認可などを与えるものや補助金を交付するものなどが含まれます。
 具体的には、表1のとおり定められました(法2条2項1号、施行令別表1)。このうち第一種事業は、その規模が大きく、必ず環境アセスメントを実施する事業です。これに対して第二種事業は、第一種にくらべて規模は小さいものの、環境への影響が大きいようならやはりアセスメントを実施するよう、個別に判定されることになります(スクリーニング、法4条)。この判定に際しては、当該事業地域の都道府県知事の意見を聴くことが盛り込まれたほか、判定を受けずに事業者の判断により環境アセスメントを実施することもできます。

表1 環境影響評価法の対象事業一覧
第1種事業
(必ず手続を行う)
第2種事業
(手続を行うかどうかを判定)
1

高速自動車国道
首都高速道路等
一般国道
大規模林道
すべて
4車線以上すべて
4車線・10km以上
2車線・20km以上
―――――
―――――
4車線・7.5 〜10km
2車線・15 〜20km


ダム・堰
湖沼水位調節施設・放水路
湛水面積 100 ha以上
改変面積 100 ha以上
湛水面積 75〜100 ha
改変面積 75〜100 ha


新幹線(スーパー特急を含む)
普通鉄道・軌道
(モノレール・路面電車を除く)
すべて
10km以上
 
―――――
7.5 〜10km
 
4 飛 行 場 滑走路長 2500m以上 滑走路長 1875m〜2500m



水力発電所
火力発電所
地熱発電所
原子力発電所
出力3万kw以上
出力15万kw以上
出力1万kw以上
すべて
出力 2.25〜3万kw
出力11.25〜15万kw
出力 7500〜1万kw
―――――
6 廃棄物最終処分場 埋立面積 30ha 以上 埋立面積 25〜30 ha
7 公有水面の埋立及び干拓 50 ha 超 40 〜 50 ha
8 土地区画整理事業 100 ha 以上 75 〜 100 ha
9 新住宅市街地開発事業
10 工業団地造成事業
11 新都市基盤整備事業
12 流通業務団地造成事業
13 宅地の造成の事業
   環境事業団・住宅都市整備
   公団・地域振興整備公団
〇 港湾計画 埋立・掘込み面積の合計が300ha以上(必ず手続を行う)


方法選定の段階から広く意見を取り入れる


 さて実施にあたっては、まず、その調査や評価の方法を決めねばなりません。事業計画に環境アセスメントの内容が反映されるには、できるだけ早い段階で広く意見を聴いて検討する必要があります。そこで、この調査方法を決める時点で、当該地域や住民などの意見を聴く機会がもたれることとなりました(スコーピング、法5〜10条)。
 事業計画者は、評価の項目やその調査・予測・評価の方法などを記した「環境影響評価方法書」(方法書)を作成して、その旨を官報や公報紙などで公告し、さらにその方法書を事業所や役場などで1ヶ月間縦覧に供しなければなりません。この内容について環境保全の見地から意見のある者は、地域住民に限らず誰でも、それについての意見書を提出することができます(縦覧期間後2週間以内)。また事業計画者はこの方法書を関係自治体に送付することとし、関係地域の市町村長の意見を聴いたうえで都道府県知事が90日以内(困難な実地調査等の必要があるときは120日以内)に意見書を提出します。
 これら意見書の内容をふまえて環境アセスメントの方法を再度検討したうえで、実際の環境影響調査が行われることとなります。

項目の拡充 ― 現在と将来の国民に豊かな自然を


 ちなみに、調査・評価項目については、その概括的なものを環境庁が「基本的事項」として公表しています。さらに、この基本的事項に基づいて、それぞれの事業の種類ごとに、その事業を管轄する主務省庁がさらに具体的な指針を公表しているところです。
 調査項目の範囲は、表2のとおり整理され、従来の公害防止や希少動植物保護だけにとどまらない、新たな視点が取り入れられました。

表2 対象項目となる環境の要素の範囲
I環境の事前的構成要素の良好な状態の保持
 ●大気汚染
    大気質・騒音・振動・悪臭・その他
 ●水環境
    水質・底質・地下水・その他
 ●土地環境・その他の環境
    地形地質・地盤・その他・土壌
II生物の多様性の確保及び自然環境の体系的保全
 ●植 物
 ●動 物
 ●生態系
III人と自然との豊かなふれあい
 ●景 観
 ●ふれあい活動の場
IV環境への負荷
    廃棄物等・温室効果ガス等


 たとえば、これまでは、希少種や天然記念物が確認されても、他に移植したり周辺に存在すればそれで「影響なし」と評価されていました。しかし新たに、生物の多様性と自然環境を体系的に保全するという視点から、「里山」「干潟」といったありふれた自然についてもアセスメントの対象となり、全体として保護することが可能となったのです。そのほかにも、二酸化炭素や窒素酸化物など地球温暖化の原因といわれる物質やその他の廃棄物・残土・建築廃材等々といった、排出を抑制すべき事項についてもアセスメントの対象とされるなど、調査項目は充実したものとなっています。
 さらに、従来は地域の特性や事業の特徴などにかかわらず一律に同じ調査方法がとられるため、不経済な点や調査の不足する点がみられました。そこで新法下では、事業の種類ごとに主務省庁が公表している指針についても、あくまで標準的な方法を定めたものとし、地域や事業の特性に応じた柔軟な方法が採用できることとしました。

「準備書」を作成し、再度広く意見を募る


 さて、実際の調査・予測・評価が行われたあと、事業者はその内容を「環境影響評価準備書」(準備書)としてまとめることになります(法14〜20条)。
 そしてその旨を公告すると同時に、準備書を1ヶ月間の縦覧に供します。さらには準備書についての説明会をもつことも義務づけられています。準備書の内容について環境保全の見地から意見のある者は、誰でもそれについて意見書を提出することができます(縦覧期間後2週間以内)。また事業計画者はこの準備書を関係自治体に送付し、関係地域の市町村長の意見を聴いたうえで都道府県知事が120日以内(困難な実地調査等の必要があるときは150日以内)に意見書を提出します。このように、住民や専門家・関係自治体の意見を広く聴く機会が、前述の方法選定の際のほか、2回もたれるわけです。
 この準備書においては、環境基準等をクリアしているかどうかの数値はもちろん、実行可能な範囲内でもっとも環境への影響を回避・軽減する途がとられているかどうかが評価されることになります。そのため、環境保全のための複数の案を比較検討した経過内容や、どうしても影響を軽減できないならば必要に応じた代償措置をとることが盛りこまれる必要があります。また、事業が完成した後にも追跡調査が必要な場合にはその内容や対応策をも盛り込むことが義務づけられました。

環境庁・主務官庁の意見を聴いてようやく完成


 こうしていよいよ「環境影響評価書」(評価書)が作成されます(法21〜24条)。事業者は許認可を行う主務官庁にこの評価書を送付します。
 まず、環境庁長官が必要に応じてこれに対する環境保全上の意見書を当該主務官庁に提出し(45日以内)、これをふまえて、主務官庁では90日以内に事業者に意見書を交付します。
 これら意見を勘案して、事業者は評価書を再検討し(必要に応じ追加調査等も行う)手直ししたうえで、最終的な評価書を作成して公告・縦覧(1ヶ月)に供することとなります(法25〜27条)。

評価書公告まで
  国の事業はストップ
  許認可事業はさらに審査


 たとえ国が行う開発事業であっても、この評価書の公告までは工事に着手することはできません。公告がなされてはじめて実施可能となるのです(法31条)。
 一方、許認可の必要な事業については、この評価書の内容を受けて、環境の保全に配慮しているかどうかが審査され、当該事業を許可・認可するかどうかの判断材料とされます。もちろん許認可を拒否することもあれば、必要に応じて条件を付けることも行われることになります(法33〜35条)。
 さらに、評価書の公告の後でも、対象地域やその周辺の環境に変化があるなど特別の事情があって必要となれば、環境アセスメント手続きは再度実施されることも規定されました(法32条)。
*  *  *

 なお、手続きが重複しないため、地方自治体が行うアセスメントは国の対象事業に該当しないものに限定されることになりましたが、国のアセスメント手続きの中で地方自治体としての意見をまとめるために審査会や公聴会を開くことを条例で定めることは可能となっています(法60・61条)。
 制定された環境影響評価法が、今後どのような力を発揮するかは未知数です。附則7条では、施行後10年を経過した時点で再検討することが決められています。適切な見直しによる改良・改善が期待されます。




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