
「嫡出子」「嫡出である子」「嫡出でない子」

A〔市民〕 「嫡出子」(ちゃくしゅつし)とは、何のことをいうのですか。
B〔法律家〕 「嫡出子」というのは、法律上の婚姻関係にある夫婦から生まれた子のことをいいます(民法789条・809条、国籍法3条1項、戸籍法62条など)。もっとも、現在の民法では、「嫡出である子」とか「嫡出でない子」といういい方もよくみられます(民法790条、900条4号など参照)。
ところで、昭和22年の民法の大改正(親族編・相続編の全部改正)以前は、民法上も「嫡出子」という用語で統一されていました。民法第4編(親族)の第4章(親子)の第1節は「実子」という節でしたが、その第1款は「嫡出子」、第2款は「嫡出ニ非サル子」という款名が付けられていました。第2款の款名は昭和17年の改正以後のことで、それより前の第2款の款名は「庶子及ヒ私生子」となっていました。昭和17年改正により私生子という用語は民法から姿を消しましたが、「庶子」は昭和22年の改正まで残りました。
A 「私生子」とか「庶子」というのは何ですか。
B 昭和17年の民法改正前は、法律上の婚姻関係にない男女間に生まれた子を「私生子」といいましたが、父親が自分の子であると認知した場合には、その子を「庶子」といったのです。
A 昔の本を読んでいたら、「私生子」とか「庶子」といったことばがでてきたのですが、そういう意味だったのですね。
B ところで、民法上の用語である「嫡出でない子」といっても分かりにくいので、最近では「婚外子」などということもあるようですね。
A ネーミングの問題は分かりましたが、「嫡出である子」と「嫡出でない子」とは、民法上の取扱いがどのように違うのですか。
B 「嫡出である子」は父母の氏を称し、父母の共同親権に服します。相続分は、「嫡出でない子」の2倍です。
一方、「嫡出でない子」は母の氏を称しますが、認知されたときは家庭裁判所の許可を得て父の氏を称することができます。また、母の親権に服しますが、認知されたときは父母の協議又は家庭裁判所の審判により父を親権者と定めることができます。認知された「嫡出でない子」の相続分は「嫡出である子」の2分の1です。
A 相続分については、ずいぶん差が出るのですね。
B 法律婚主義をとる以上このような差別は合理性があると一般に考えられてきました。ところが、平成5年6月に東京高裁は、このような立法目的の合理性以外に個人の尊厳も等しく考慮すべきであるとの見地から憲法14条の法の下の平等に反し無効であるとの判決を下しました。しかし、最高裁判所は、「法律上の配偶者との間に出生した嫡出子の立場を尊重するとともに、他方、被相続人の子である非嫡出子の立場にも配慮して、非嫡出子に嫡出子の2分の1の法定相続分を認めることにより、非嫡出子を保護しようとしたものであり、法律婚の尊重と非嫡出子の保護の調整を図ったものであって、現行民法が法律婚主義を採用している以上、その立法理由には合理的な根拠があり、…」として合憲であると判示しました(最大決平7・7・5民集49巻7号1789頁)。
A 生まれて来た子には、父母間の法律上の立場は何の関係もないわけですから、これを不利益に扱う理由はないとも思われますが、一方では、法律上の正規の婚姻関係ということの重みを考えてしまいますね。
B 葬儀の場で正妻の子と婚姻外の子とが張り合うといった場面はときどき見かけますね。子同志の感情とか利害もからんでむづかしいところです。
最高裁の判決では合憲とされたのですが、平成8年1月に法務省の法制審議会民法部会が発表した民法の一部改正要綱案では、「嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分と同等とするものとする」とされています。ただし、この要綱案の中には、「夫婦別姓」とか「離婚における破綻主義」など多くの内容がもり込まれていたために、与党の賛成が得られず、政府からはいまだに法案として提出されてはいません。
A 合憲であっても、どういう政策をとるかはまた別問題ということですね。
B いろいろな場面を総合的に検討して、あなたならどうすべきだと思うか考えをまとめてみらたどうでしょうか。
田島 信威(参議院法制局長)


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