新騒音環境基準スタート
幹線道路中心に大幅緩和

騒音に係る環境基準について
―平成10年環境庁告示64号―



新しい騒音環境基準スタート


 わたしたちが健康で快適にくらしていく上で、生活環境はとても大切なものです。平成5年に制定された環境基本法(くわしくは「そよ風70号」参照)では、「政府は、大気の汚染、水質の汚濁、土壌の汚染及び騒音に係る環境上の条件について、それぞれ、人の健康を保護し、及び生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準を定めるものとする」としています(16条)。
 これを受けて、騒音についての新しい環境基準が平成10年9月30日に告示され、この4月1日からスタートすることとなりました。従来の騒音基準は昭和46年に、閣議決定として定められたものでしたが、じつに27年ぶりの改定となります。

最高裁の判断は65dBが受忍限度


 この間、平成7年7月7日には、国道43号・阪神高速道路騒音排気ガス規制等請求事件の最高裁判決が出されました。この裁判は、道路近辺の騒音等に悩まされていた住民が、国と阪神高速道路公団を相手どり、道路の管理責任の落ち度とそれによって生じた被害に対しての損害賠償などを請求したものでした。
 これについて最高裁は、騒音について初めての判断を下し、65デシベル以上の騒音被害は受忍限度を超えているとしました。そして国と公団に道路の設置・管理の瑕疵(落ち度)を認め、損害賠償を支払うよう命じたものです。
※デシベル(dB):音の大きさ・強さの単位。騒音をはかる基準として用いられる。従来のホン(A)と同じ。平成5年の計量法改正によってデシベルに統一された。


軒なみ緩和された新騒音基準


 さて、騒音に係る環境基準は、地域の類型と時間帯ごとに分けて定められています。
新基準ではこの地域が4つに分けられました。

 また時間帯は、旧基準の昼間、朝・夕、夜間の3区分から、昼間(=午前6時〜午後10時)と夜間(午後10時〜午前6時)の2つになりました。
 基準値については表1をご覧ください。値は最大で10dBアップ。そのほかでも以前と同じもしくは5dBアップとなり、基準がきびしくなったところはひとつもありません。

表1 一般地域における環境基準
( )内は昭和46年の旧基準
昼間〔am6時〜pm10時〕夜間〔pm10時〜am6時〕
とくに静穏を要する地域50dB以下
(昼45ホン・朝夕40ホン)
40dB以下
(35ホン)
専らあるいは主として
住居の用に供される地域
55dB以下
(昼50ホン・朝夕45ホン)
45dB以下
(40ホン)
商工業住居併用地域60dB以下
(昼60ホン・朝夕55ホン)
50dB以下
(50ホン)

表2 道路に面する地域における環境基準
( )内は昭和46年の旧基準
昼  間夜  間
専ら住居の用に供される地域のうち
2車線以上の道路に面するところ
〔新設〕
60dB以下55dB以下
主として住居の用に供される地域のうち
2車線以上の道路に面するところ
及び商工業住居併用地域のうち
車線のある道路に面するところ
65dB以下
(昼55〜65ホン)
(朝夕50〜65ホン)
60dB以下
(45〜60ホン)

 そして道路に面する地域については、さらに表2のように、別の基準が定められています。
 このうち最もきびしい基準をみても、夜間では45dBであったものが新基準では55dBに、昼間では50dBが60dB(=テレビ・ラジオの音)へと大きく後退しています(ちなみに、40dBで睡眠が妨げられるという評価もある)。
 このように、総じて基準値は緩められる結果となりました。その理由として、今回の改定で騒音の評価方法が、「中央値」(一定の時間内に図った数値を大きい順に並べその中央値をとったもの)から「等価騒音レベル」(騒音のエネルギーの平均値)に変更されたことがあげられています。同じ騒音でも等価騒音レベルで評価すると中央値よりも数デシベル高い値が出るからというものです。

幹線道路にはさらに特例  屋内測定も可能


 さらに今回、新しく幹線道路についての「特例」が設けられました。これは、幹線交通を担う道路(幹線道路)に面する地域については、特別に、昼間70dB・夜間65dBとするというものです(表3、ちなみに電話のベルが約70dB)。

表3 幹線道路に面する地域における特例基準
〔新設〕
昼  間夜  間
屋外で測定70dB以下65dB以下
道路に面した窓を閉めた屋内45dB以下40dB以下
注)近隣マンションの中・高層階も下欄の屋内基準に含まれる。

 前述の国道43号線訴訟では、最高裁は新方式の等価騒音レベルを採用しましたが、それでも65dBを受忍限度としたのですから、この「特例」基準はその判断より後退したものとなっています。
 そしてさらに、この地域については、とくに屋内での値を基準値とすることも認められることになりました。騒音の影響を受けやすい面の窓をいつも閉めて生活していると認められるときに限り、その屋内での値が昼間45dB、夜間40dB以下ならいいとするものです(近隣の高層マンションの中・上階でもこの屋内基準を適用)。そして、この屋内の夜間基準40dBは、世界保健機関(WHO)の推奨値よりも10dBも高いものとなっています。
 室内が静かであれば外はうるさくてもよいといった考えには異論もあります。まして、今回の特例の対象となる幹線道路は、全国の道路の16%強にもなるのです。

*    *    *

 加えて、環境基準の達成期間の目処が、5年から10年に延ばされました。そしてさらに、幹線道路に面する地域については、「10年を超える期間で可及的速やかに」達成するよう努力すること、と大きく後退しています。
この基準を改定するにあたっては、道路を建設する建設省からの強い要望があり、「守れる値」をとの考え方が優先されたとの報道もあります。そして現実に、幹線道路に面した地域にこの新たな特例措置がとられることにより、旧基準では騒音基準が達成できていなかったのに、新基準では達成されたことになる地域が急増しています。
しかし、本来、環境基準というからには、守れる基準ではなく、わたしたちが快適に暮らしていける、守られるべき基準の作成がなされるべきではないでしょうか。




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