これは、そよ風98号(1999年4月号)に掲載された記事です。男女雇用機会均等法はその後さらに改正されています。その内容については、そよ風146号をご覧ください。

男女雇用機会均等法    
  いよいよ第2ステージへ

〜女性が人としてイキイキ働ける社会をめざして〜

平成11年4月1日 全面施行



 「男はたくましく、女はやさしくソフトで…」こんな紋切り型(ステレオタイプ)の考え方をどうお思いですか。現実に身近で生きる人びとを思い描いてください。こんな型にはおさまりきらず、それぞれ、その人なりの個性を発揮して生きているのではないでしょうか。
 雇用の分野における男女差別の解消が、新たな第2段階を迎えました。

女性雇用者数  2127万人に(H9年)

 男女雇用機会均等法が施行されたのは1986年(昭和61年)4月でした(くわしくは「そよ風22号」参照)。それ以前といえば、男女別の定年制や女性の結婚退職制があたりまえといった時代がありました。
それが今や、全雇用者の4割を女性が占め、平均勤続年数も8.4年(男性13.3年)と伸びています。女性のうち10年選手が約3割、20年選手も約1割を占める時代となったのです。
 均等法の制定をきっかけに、たしかに社会意識は大きく向上したといえましょう。しかし現実には、女子学生の就職は超氷河期、あるいは男は総合職・女は一般職などということばがまかり通るように、実態としてはまだまだ効果がないのが現状です。
 そこで、均等法制定から十数年をへて、これまでの成果と現状を分析した上で、本年4月1日からさらに新たな法規制の段階へ入ることとなりました。

「女性のみ」も差別!  同一の取扱を求めて

 従来は、定年・退職・解雇についてのみ、差別の禁止が明記され、それ以外は努力規定に止まっていました。今回新たに、募集・採用・昇進・配置・教育訓練においても、女性に対して差別することが禁止されることになりました(均等法5・6条、くわしくは指針「募集及び採用並びに配置・昇進及び教育訓練について事業主が適切に対処するための指針」で定められる)。これにより、募集・採用から定年・退職に至るあらゆる雇用管理の場面で差別禁止が徹底されることになります。
 しかも従来は、女性のみの募集や採用あるいは配置・教育などはOKとされていました。こうした措置は女性の職場を広げることになると考えられていたからです。しかし現実には、パート女子・一般職女子・受付女子といった募集や、女性のみに湯茶接待の教育を行うといったことは、女性の職場を広げるどころか、かえって職場を固定化し限定的な仕事に限ることを正当化することにつながっていると、反省がなされました。
 そこで、「女性のみ」とする扱いも、同様に禁止の対象とすることになりました。これにより、「女性の排除」はもちろん、「男女で異なる扱い」や「女性のみの扱い」はすべて禁止されることとなります。
 たとえば募集に際しての表現も、「営業スタッフ」「営業マン(男女)」「看護婦・士募集」という言葉が用いられることとなり、「営業マン」「ウエイトレス」「パート女子」「男性歓迎」「女性向きの職場」といった表現は禁止されます。もちろん、男性のみに会社案内などの資料を送付したり、「男20人、女5人」といった男女別の採用枠を決めたり、女性にのみ未婚・自宅通勤者などといった制限をつけたり、一方にのみ試験を課したり、女性にのみ「結婚しても仕事を続けるか」などの質問をすることも禁止されます。さらに女性を採用しないという方針のもとに、採用決定にあたって女性を排除することも当然のことながら許されません。また、応募者の男女比が同程度なのに採用される女性が極端に少ない例なども指導の対象となると考えられています。
 あるいは配置や昇進についても、営業職へは男性のみを秘書や受付には女性のみをといった配置や、女性についてのみ結婚していることを理由に研究職や昇格から排除したり、また、昇進のための条件を(たとえば勤続年数や役職・試験・資格など)男女で別に定めることなどが禁止されます。

男女雇用機会均等法の主な改正点
改正前
改正後




募集・採用
努力義務
禁 止
配置・昇進
努力義務
禁 止
教育訓練
一部禁止
禁 止
福利厚生
一部禁止
一部禁止
定年・退職・解雇
禁 止
禁 止
女性のみ・女性優遇
禁 止
原則として禁止
調 停
双方の同意が条件
一方申請でも可
制 裁
――
企業名の公表
ポジティブアクション
――
国による援助
セクシュアルハラスメント
――
事業主の配慮義務
母性健康管理
努力義務
義務化

男女格差是正のための積極登用は応援


 このような法律ができても、現実には、これまでの経緯から、課長以上の管理職には女性がほとんどいないなどといった、職場での男女差が一挙に解消するものではありません。
 そこで、こうした職場での男女差の解消をめざして
こうした手続き(ポジティブアクション)を企業が行う際に、国が相談にのったり援助することが定められました(均等法20条)。
 さらに、「女子のみ」の規定も禁止されると前述しましたが、こうした男女差を解消するためになされる措置については、例外的に禁止の対象からはずされています(均等法9条)。たとえば、女性管理職が少ない分野で、女性のみに昇進試験を奨励したり、女性を優先的に昇進させるなどの措置がこれにあたります。
 この場合の「少ない」とは、全労働者に占める女性労働者の割合、つまり4割を下回っている状況をさしています。

悪質な企業名は公表します!

 雇用管理のすべての局面で男女差別が禁止事項とされたとはいっても、今回も、罰金・処分などといった罰則規定は見送られました。
 ただし、こうした禁止事項(均等法5〜8条、募集・採用、配置・昇進・教育訓練、福利厚生、定年・退職・解雇)について違反しているときには、各都道府県の女性少年室長や労働大臣が指導・勧告し、この勧告にも従わない悪質な場合には、企業名の公表を行うこととしました(均等法26条)。
 また、職場での男女差別の苦情については、企業内で自主的に解決するほか、都道府県の女性少年室長からの助言・指導・勧告を受けることができ、さらに機会均等調停委員会に調停を申し立てることができることになっています。この調停については、均等法制定以来まだ1件しか扱われたことがありません。調停が当事者双方(使用者及び雇用者)の同意ではじめて行われることが、その原因の一つとして考えられます。そこで今回の改正で、紛争の当事者の一方からの申出で調停が開かれることになりました。また、女性少年室長に援助を求めたり、調停を申し立てたことを理由に、解雇等の不利益な扱いをしてはならないことが法律に明記されました(均等法12・13条)。

職場でのセクハラにも規制の目

 さらに新たに、職場での性的嫌がらせ(セクシュアルハラスメント)についても、雇用管理上、配慮することが義務づけられました(均等法21条)。
 たとえば、上司が部下の女性に性的関係を要求し拒否されたため解雇や不利な配置転換をするとか(対価型セクハラ)、社内で胸や腰にたびたび触られて嫌悪のため業務に専念できないとか、取引先に同僚が性的な噂を流したため仕事ができないとか(環境型セクハラ)いった場合があげられます(くわしくは指針「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上配慮すべき事項についての指針」で定める)。
 こうしたことがないように職場での啓蒙・啓発を行うとともに、相談や苦情の体制を整え、事実関係の確認や配置転換等といった事後の迅速・適切な措置をとることが義務づけられています。

「女性だから」の保護規定は撤廃します!

 男女雇用機会均等法の改正によって、職場での男女差別が禁止され、男女が同じように待遇されることになったことにあわせて、労働基準法の女性労働者についての規定も改定されました。女性労働者の一部について、時間外や休日労働・深夜業が制限されていたものが、原則としてすべて廃止されたものです(労基法64条の2・64条の3)。
 すでに管理職や専門職の女性については、これらの制限は昭和61年以来撤廃されていました。しかしその他の女性労働者については、職種などに応じてそれぞれ制限がなされていたものです。女性の職域の拡大をはかる観点から、こうした制限は取り除くこととなりました。

表1 時間外労働の上限基準
期 間
限 度 時 間
 1週間 
15(14)時間 
 2週間 
27(25)時間 
 4週間 
43(40)時間 
 1ヶ月
45(42)時間 
 2ヶ月
81(75)時間 
 3ヶ月
 120(110)時間 
 1年間 
 360(320)時間 
但し、( )内は対象期間が3ヶ月を超える
   1年単位の変形労働の場合

 しかし、本来、男女共に長時間の時間外労働は避けるべきものです。そこで、労使が時間外労働について協定を結ぶ際の上限基準を労働大臣が定めることとしました(表1参照、労基法36条、従来は法的な根拠のない目安だった)。この基準を守るように行政指導が行われることとなります。

 また、従来の保護が一斉に取り除かれることによって生じる不都合を緩和するため、平成14年3月31日までの3年間に限り、一定の者(特別労働者)については、時間外労働の基準に別枠をつくることとしました(表2、労基法133条)。対象となるのは、小学校就学前の幼い子どもがいるか、または2週間以上の介護が必要な親族(配偶者・父母・子・義父母および同居し扶養している祖父母・兄弟姉妹・孫)がいる18歳以上の女性労働者で(ただし、従来から保護規定のなかった管理職・専門職は対象外)、本人の希望によって別枠の時間外規定が適用されるものです。
 <なお、この規定が平成14年春に廃止されたかわりに、「育児・介護休業法」の中に、男女ともの労働者を対象とした残業制限の規定が新たに設けられました。くわしくは「そよ風」116号参照>

表2 特別労働者についての時間外労働の上限基準
事業の種類
期 間
限度時間
製造業、鉱業、建設業、運輸交通業、
貨物取扱業等
1週間
1年間
※6時間
150時間
保健衛生業、接客娯楽業 2週間
1年間
12時間
150時間
林業、商業、金融・広告業、映画・演劇業、
通信業、教育・研究業、清掃・と畜業等
4週間
1年間
36時間
150時間
この欄の事業で、決算のための業務に従事させる場合には、1週間に
 ついて6時間ではなく、2週間について12時間とすることができる。

 なお、坑内労働の禁止規定や、妊産婦についての母性保護規定(危険有害業務への就業制限・産前産後休暇・育児時間等の規定)、また生理休暇の規定は従来どおり残されています。
 一方、女性に深夜労働(午後10時〜午前5時)をさせるにあたっては、通勤や業務上の安全をはかり防犯措置をとることや、子の養育や家族介護あるいは本人の健康等の事情を考慮すること、あるいは仮眠室なども男女別につくるなどのとるべき措置について定められました(深夜業に従事する女性労働者の就業環境等の整備に関する指針)。

男女とも、家庭のためには深夜業を拒否できます

 また、女性の深夜業規制を撤廃したため、両親ともに深夜業に従事するケースや深夜に介護する人がいないなどの場合も考えられます。
 そこで、育児・介護休業法が改正され、男女を問わず、一定の家庭責任を果たすために労働者が請求した場合には、事業の正常な運営を妨げる場合をのぞき、深夜業をさせてはならないと定められました(育児・介護休業法16条の2・16条の3)。
 対象となるのは、小学校就学前の幼い子どもがいるか、または介護が必要な親族(配偶者・父母・子・義父母および同居し扶養している祖父母・兄弟姉妹・孫)がいる労働者です。ただし、(a)日雇労働者、(b)勤続一年未満の者、(c)保育・介護ができる同居親族がいる者(深夜業に従事せず、特別な障害・疾病もなく、産前産後でもない、16歳以上の者をいう)、(d)1週間に2日以下のパート、(e)労働時間の全部が深夜にある者は、請求できません。
 この深夜業にはつかない旨の請求の手続きは、1ヶ月〜6ヶ月の期間を定めて(開始日・終了日を明確にする)、開始日の1ヶ月前までに請求しなければなりません。また、この請求は何回でもすることができます
*    *    *

 女性が、職場で男性と同等の扱いを受けるということは、これまでの各種の保護措置を手放すことでもありました。
 この一連の改正を、「男だから」「女だから」と性による違いから閉ざされていた職場環境を切り開き、「私はこういう生き方をしたいから」と人として働き方を選べる社会としていくのか、あるいは、「安い女性労働を深夜や時間外にも使えるようになったから」と職場環境の悪化へと転落してしまうのか、これからが正念場といえましょう。




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