すぐれた美術品は人類の宝

死蔵され埋もれた美術品にも    
       広く一般に見るチャンスを!


美術品公開法の制定平成10年12月10日施行



どこへ行った……あの世界の美術品

 本来、すぐれた美術品というものは、所有者個人の財産にとどまらず、人類共通の貴重な財産でもあります。そのため、大切に管理される必要があると同時に、死蔵されることなく広く一般にも活用されることが望ましいといえましょう。
 さらに近年では美術への関心も高まり、日本各地あるいは世界の美術館をめぐる旅に多くの人々が出かける時代がやってきました。そうしたとき、残念ながら日本の美術館の現状は十分豊かとはいえないのが実情です。
 一方、バブルの時期に、日本は金にあかせて世界の美術品を買いあさり、世界的な美術品が数多く入ってきましたが、その後、それら美術品の多くは一般公開されることもなく、しかも所在が不明となるものまで出るありさまで、日本の文化行政に対して国内外から強い批判がなされていました。
 そこで、今回、日本国内で個人や企業によって死蔵されている美術品が少しでも多く美術館で公開されるようにと、「美術品の美術館における公開の促進に関する法律」が制定されました。この法律は平成10年12月10日より施行されています。

「登録美術品」制度の新設

 所蔵する美術品を美術館で公開しようとする所有者は、文化庁に申請して「登録美術品」として登録してもらうことができます。
 対象となるのは次のものに限られます(法3条2項、登録美術品登録基準)。

(1) 文化財保護法により指定された「重要文化財」(現在、美術工芸品は9877件、うち国宝839件)
(2) 世界文化の見地から歴史上・芸術上・学術上に優れた価値があるもの(制作者が生存中のものはダメ)

 したがって、うちの蔵に眠っているあの掛け軸を試しに…というレベルでは、今法の対象とはなりがたいといえましょう。また、当然美術館で公開するわけですから建造物などは対象とならず、絵画・彫刻・工芸品・文字資料・考古資料・歴史資料及びこれらの複合資料に限られています。
 申請書には、当該美術品の由来や歴史上・芸術上・学術上の価値などを記載したうえで、美術品の写真や公開予定の美術館の受入確認の書類などを添付することになります(規則1条)。
 受入美術館は国立・公立・民間を問いませんが、博物館法の基準を満たした「登録博物館」または「博物館相当施設」に限られます。心当たりの美術館がない場合には、文化庁がその相談や斡旋にのってくれることになっています(法9条)。

美術館と国が責任もって公開・管理

 登録美術品として登録されると、3ヶ月以内に受入美術館と「登録美術品公開契約」を締結し、当該美術品を引き渡さなければなりません。
 この公開契約は、(1)5年以上の期間にわたる契約であること、(2)先期間中の一方的な解約はできないことが盛り込まれる必要がありますが、あとは当事者間の自由な契約に任されています(法2条4号)。たとえば、美術館が所有者に一定の謝礼を払うといったことも当然自由です。
 こうして美術館が責任をもって保管・公開してくれるわけですし、美術館では毎年文化庁にその計画及び報告を提出することになっていますので、所有者は安心して任せることができます。しかも美術品は美術館で公開されるだけでなく、文化庁のインターネットなどを通じて広く国民の知らせることが義務づけられていますので、企業にとってはPR効果も期待できるわけです(法8・10条、逆に匿名を希望することも可能)。
 ちなみに登録美術品は、所有者が取消を申請するか右契約を満了して公開をやめるときにはその登録が取り消されますが、続いて契約を更改したり新たに異なる美術館と公開契約を直ちに結ぶなら登録は継続されることになっています(法6条)。

相続税の「物納」時、登録美術品は優先受入

 さらに加えて、登録美術品には相続税の特例措置もとられます(附則3、租税特別措置法70条の11)。
 税金は原則として金銭で納付することが義務づけられていますが、相続税に限っては、金銭で納付することが無理、たとえ延納(原則として5年)が認められても金銭納付が無理といった場合には、税務署の許可を得て、物で納める「物納」という制度があります。この際、物納の順位は(1)国債・地方債または不動産・船舶、(2)社債・株式、(3)動産、と定められており、美術品は当然動産ですから、3番目の順位でしかないわけです。そのため、文化庁で把握している限り、美術品が物納で受け入れられた例は過去に1件あったにすぎません。
 今法の制定で、登録美術品については、(1)の順位に位置づけ、優先的に受け入れることが決まりました。さらに、相続の際には、文化庁に申請して当該登録美術品の価格評価をしてもらうこともできます(規則16条)。
 フランスでは、1985年、この物納コレクションによってピカソ美術館を設立しました。日本でもこれがきっかけとなって、多くの貴重な美術品の公開が進むことが期待されています。
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 この法律は、施行後5年たった時点で改めて検討・改善されることが予定されています。
 なお、従前から美術館に保管などを寄託していた美術品については、これまでどおりの扱いとなります。登録美術品として登録するには、改めて今法に基づいた手続きをとる必要があります。




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