ボランティア・市民活動を広く認知するNPO法制定

公益非営利組織に法人化の道
平成10年12月1日よりスタート

市民の力を生かしてよりよい社会を


 阪神大震災では、立ち遅れた行政の対応を補完するように、多くのボランティアによるめざましい活動が見られました。また世界中からも、各国政府の公式な援助に止まらず、多数のNPO(Non Profit Organization 、非営利団体)がかけつけ援助の手をさしのべました。今や、国に頼るだけではなく、積極的に市民の力を生かしてよりよい社会をつくろうという動きが活発になっています。
 しかし、こうしたNPOの活動がよりさかんになり継続的なものとなるにしたがって、その活動には法的な限界が生じてきます。たとえば、活動の拠点となる事務所を手に入れてもその不動産登記は当該団体名ではできず、代表者の個人名あるいは団体員全員の名前で共有登記しなければならない。また、活動を行ううえで不可欠な自動車や電話加入権利も個人名でなければ入手できない。当座預金についても、銀行によっては団体名では受け付けてくれない等々。さらに国際的な活動をしたり大きな取引を行ううえでも、従来のNPOの形ではさまざまな制約がありました。
 こうした場合、これまでも「公益法人」(民法34条、財団法人・社団法人)となる道がありました。公益法人になれば、法的には人間として扱われて権利義務の主体となることができ各種の法的制約はなくなると同時に、税制上も有利な立場になる道が開かれます。しかし公益法人の設立は許可制で、きびしい許可基準があります。確固たる財政基盤がなければ許可されませんし、許可された後も行政官庁からの指導をうける立場になり、本来の自由な活動が制約されることにもなります。そこで、今までどおりの不便をしのぶか、あるいは公益的な活動をしているにもかかわらず、本来営利活動を目的として設立される会社法人(株式会社や有限会社など)の形をとって「法人」格を得る団体もあるのが実情です。営利目的の会社法人ならば、形式さえととのえば設立は自由で一切の制約を受けないからです。
 今回新たに制定された「特定非営利活動促進法NPO法)」は、公益的な活動をしているこうした多くの市民活動団体に、比較的簡易な手続で、しかも行政の口出しをできるだけ少なくした形で、法人化の道を開こうとするものです。

どんなNPOに法人化の道が?


 今法で「特定非営利活動法人」として法人化が認められるのは、次の条件をすべて満たした団体です(法2・12条)。

1 不特定多数の利益(公益)に寄与することを目的にしていること。
 同窓会や同好会といった特定の人を対象にした活動は対象となりません。また非営利が大前提ですから、構成員の間で剰余金(利益)や財産の分配をすることは当然できません。しかし収益事業一切が禁止されるわけではなく、本来の公益事業を行う資金とするための収益活動は認められています。

2 下表の12の活動分野のいずれかに該当すること。
 今法では、その主たる目的がこの12分野に限定されました。そのため市民オンブズマン活動といった一般的な表現ではたりず、定款や事業計画などに12分野のいずれに該当するかを具体的に記載する必要があります。

1 保健、医療または福祉の増進を図る活動
2 社会教育の推進を図る活動
3 まちづくりの推進を図る活動
4 文化、芸術またはスポーツの振興を図る活動
5 環境の保全を図る活動
6 災害救援活動
7 地域安全活動
8 人権の擁護または平和の推進を図る活動
9 国際協力の活動
10 男女共同参画社会の形成の促進を図る活動
11 子どもの健全育成を図る活動
12 前各号に掲げる活動を行う団体の運営または
  活動に関する連絡、助言または援助の活動

3 宗教活動・政治活動を主たる目的としない。また特定の候補者や政党を応援したり反対する選挙活動については一切目的としない。
 個々の政策について支持・反対することはもちろんさしつかえありませんし、たとえば、特定の宗教の信者が中心となった団体であっても、たとえそれらが宗教活動をしても、その宗教活動が従たる目的とし行われるのであれば問題とはされません。

4 組織としては10人以上の社員(議決権をもった団体員)がいること。
 社員は、外国人でも、未成年者でも、法人でもかまいません。

5 加入・脱退の自由が保障されていること。
 恣意的・独善的な支配を防ぐため、活動目的に照らして「不当な条件」をつけることは禁止されています。

6 役員のうち報酬を支払われる者が3分の1以下であること。
 役員報酬という形で営利活動が行われないように設けられた規定です。

7 暴力団や暴力団員の統制下にないこと。
 この規定は、役員の欠格事由としてもきびしく決められています。


どんな手続きで法人化できる?


 法人手続は許可制にくらべてゆるやかな認証制がとられます。また所轄庁も、タテ割りの各省庁ではなく、原則として事務所の所在地の都道府県知事があたります。事務所が複数の県にまたがる場合に限り経済企画庁長官が担当します(法9条)。
 設立に必要なのは以下の書面です(法10条1項)。

 なお、役員には、理事3人・監事1人以上が必要で、親族が複数であたることへの制限があります。また定款の改正には、出席者2分の1以上の総会でその4分の3以上の賛成が必要等々、具体的な規制がいくつか決められています(法11、15〜27条)。
 しかし、いずれにせよ、基本的には書面審査のみが行われるだけで、これらが書面上満たされていれば、無条件で設立が認証されることとなります。そして認証されれば、あとは法務局に登記することで晴れて「法人」となるわけです(法13条)。

情報公開によってより広い参加への道と市民によるチェックを


 こうして行政による規制・監視を最低限にするかわりに、市民相互がその活動内容をチェックできるように、広く情報公開することが義務づけられました。この情報公開は、NPOの活動を広く一般に知らせ、参加の機会を広げる意味でも重要なものといえます。
 まず、設立に際しては、申請を受理した段階で「公告」するとともに、上の(a)・(b)のうち役員名簿・(e)・(j)・(k)の書面について2ヶ月にわたり「縦覧」する措置がとられます(法10条2項)。
 また認証後も、法人の事務所には、事業報告書・財産目録・貸借対照表・収支計算書・役員名簿等をたえずそなえつけ、定款を含めて、利害関係人は閲覧することができます。さらに事務所のある都道府県庁でも、これらの書面が保管され、誰でも、いつでも、自由に閲覧できるようになっています(法28・29条)。

情報公開によってより広い参加への道と市民によるチェックを


 NPO法は本年12月1日から施行されますが、当初は申請手続きが殺到することも予想されます。そこで本来なら、申請後2ヶ月の縦覧期間を経て、さらに2ヶ月以内(申請からは4ヶ月)に認証・不認証の決定がなされるのですが、来年5月中の申請受付分については来年9月中までに認証手続きをとるとの経過措置も決められました(法12条2項、附則3)。
 もっとも、あらゆるNPOがこうした手続きをとるわけではありません。「法人」とならなければ法的に認知されない分確かに権利義務は十分享受できないかもしれませんが、逆に法的規制がないからこそ身軽で柔軟・簡易な活動ができるという利点も無視できないからです。

*  *  *

 今法制定にあたっては、NPOから要望の強かった寄付金への非課税等、税制上の優遇措置は見送られました。法人格のない従来どおりの団体と同じく、収益事業に対しては法人税や地方税が課されますし、地方税の均等割の負担もあります。
 こうした税制上の問題や、12に限った活動分野の枠を広げるのかを含め、3年後までにNPO法についてさらに検討することが決められています。また、今回取り残しとなった非営利・非公益の団体(同窓会・県人会・商店会等々)をどう扱うかの問題は依然として課題となっているところです。




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