子どもをうみ育てやすい社会に

児童福祉法の改正
H10.4.1スタート

保育所・学童保育を充実・活用  地域で身近な育児相談を実施

少子化に歯止めを!子育て支援のために


 昭和22年、戦後の混乱の中で「児童福祉法」は制定されました。それは、飢えや貧困にあえぐ子供たち、また多くの戦災孤児や浮浪児たちを保護し、住居を提供し、あるいは養育することを直接的な目的として作られた法律です。それから50年──子供たちを取りまく環境は大きく変化しました。
 今では、何より、少子化が深刻な問題となっています。合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子供の数)は、児童福祉法が制定された昭和22年には4.54あったものが、平成7年には1.42となり、さらに低下することさえ予想されています。このままでは、高齢化と少子化によって日本の人口構成は大きくゆがみ、社会・経済に深刻な影響が生ずることは必至です。女性が子供を産み育てやすい社会とするための施策が急がれねばなりません。そのためには、保育・雇用・教育・住宅などあらゆる方面からの支援が必要です。
 今回の「児童福祉法」の改正は、こうした少子化時代を迎えて、子育て支援のための措置が盛り込まれました。

保育所の選択は保護者の意向を重視


 皆さんの中にも、子供を保育所に預けながら仕事をされた経験のある方は多いのではないでしょうか。
 実はこの、子供を保育所に預けるという行為は、改正前の法律のもとでは、「児童の保育に欠けるところがある」と認められるときに、市町村が行う「行政措置」として位置づけられていました。現実には、保護者が希望する保育所を列記して申し込んでいたとしても、法律上は、市町村が行う措置だったのです。そのため、定員割れをしているにもかかわらず希望する保育所に入れなかったり、兄弟別々の保育所へ行ったりという矛盾も生じていました。
 今回の改正により、こうした「行政措置」という文言はなくなりました。これに代わって、市町村は保育所についての情報を公開し(施設設備・定員・入所状況・保育時間・方針等)、これに基づいて保護者が入所申込書を提出します。そして当該保育所が定員オーバーなどでない限り、この希望が受け入れられることとなりました。もし、希望者が多い場合には、従来どおり市町村が事情を勘案して選考することになります(法24条、規則24条)。
 また保育料についても、従来は親の所得に応じて、所得税にリンクした形で負担額が決められていました(具体額については自治体により異なる)。実際に、昭和35年度までは所得税非課税世帯が約8割を占めていたのですが、共働き世帯が増加して保育所の利用が一般的なものとなるにしたがって、今では所得税課税世帯のほうが75%を占めるようになってきました。そのため、自営業者に比べてサラリーマン世帯が不利であるとか、共働きサラリーマン世帯の負担がとくに重いといった、保育料に対する不満が出ていました。
 そこで今改正で、児童の年齢に応じて定めた額に、家計への影響を加味して、各自の保育料を定めることとなりました(法56条3項)。今年度はその第一段階として、厚生省の示す保育料の基準表を10段階から7段階へと簡素化する措置がとられています。

学童保育を初めて法的に認める


 小学校に入学後も、放課後にいわゆる「カギッ子」となる子供たちを集めて、遊びや勉強といった生活の場を保障するのが、学童保育とよばれるものです。
 この学童保育は、全国に約8600ヶ所あるといわれますが(昨年5月)、これは全市町村の3分の1にすぎません。また、国の5ヶ年計画では来年中に9000ヶ所とする目標を立てています。しかし現実には、運営主体も市町村から個人までとさまざま、しかも、学校の空き教室を利用したり、児童館や集会所、アパートの一室を借りるなど施設・設備の不備はもちろん、指導員に満足な給料も払えないのが実情です。
 今回の改正により、この学童保育が「放課後児童健全育成事業」として、初めて法的に位置づけられました(法6条の2第6項)。これにより、学童保育は第二種社会福祉事業となり(社会福祉事業法2条3項2号)、施設や職員などに一定の基準が定められるほか、財政的な支援が期待されます。また市町村では、自ら学童保育を行うとともに、既存の多様な学童保育との連携をはかるよう努めることが定められました(法21条の11)。

地域で子育てを支える 気軽に相談できる場を


 生活が豊かになり、各世帯の子供の数が減ったからといって、個々の子供たちの生活がけっして幸せになったわけではありません。都市化や核家族化の進行により、子育てが各家庭で孤立して行われた結果、子育てに行きづまり困ったときに相談したり助けあったりする手段ももたず、家庭が崩壊するなど事態が深刻になることも少なくありません。
 たとえば、養護施設に入所している子供をみると、昭和36年では父母の死亡・行方不明が約40%であったのに対して、平成4年ではそれは23%に減少し、かわって、父母の性格異常精神障害・放任怠惰・虐待酷使・棄児・養育拒否が21.5%と2倍に増えています。また児童相談所への相談をみても、平成7年度の処理数31万2453件のうち、児童虐待のケースが2722件あり、しかもこの5年間で虐待相談の件数は実に2.5倍になっているのです。
 そこで今改正では、深刻化する前に早期に発見し、早期に対応できる体制を整えることがめざされています。
 第一に、全国に2万2000余りある保育所では、広く地域の子育て相談・助言を行うことが盛り込まれました(法48条の2)。入所児童にとどまらず、専業主婦の家庭をも含めて、広く地域での子育ての交流をはかったり、保育所が有する知識・経験を役立てようというものです。
 第二に、子供の権利を守るため、児童相談所が福祉施設への入所等の措置をとる際には、医師や弁護士、教育・施設関係者らの専門的な意見をきくこととしました(具体的には児童福祉審議会の意見をきく、法27条4項8号)。
 そして第三に、入所型の児童福祉施設に「児童家庭支援センター」を付置し、ここが地域の相談援助サービスの拠点となり、地域の連絡調整などもはかるというものです(法44条の2)。
ちなみに、今改正において、この入所型の児童福祉施設についてもその名称と役割が見直されました(下表)。社会状況が大きく変化する中で、入所数が減少し、また入所者の実態も旧来の枠ではくくれなくなったためです。

表 児童福祉施設の名称・機能の見直し(ゴチックが、今回改正された部分)
名  称対 象 児 童機  能
児童自立支援施設
(旧:教護院)
不良行為をしたり又はする恐れのある児童のほか、家庭環境等の理由で生活指導などを要する児童(たとえば、親の養育怠慢・放棄により基本的な生活習慣が身についていないなど) 保護し生活指導をするにとどまらず、退所後もみすえた児童の自立を支援する
入所のほか通所形態も採用
学校教育を実施する
児童養護施設
(旧:養護施設)
保護者のない児童、虐待されている児童、その他環境上養護を要する児童。従来の虚弱児施設(結核児等の健康増進をはかる)もこれに移行する 単に養護するにとどまらず、退所後もみすえた児童の自立を支援する
乳児院 乳児(満1歳未満)のほか、必要な場合はおおむね2歳未満の幼児も含む 乳児を入院させ養育する。
情緒障害児短期治療施設軽度の情緒障害を有する児童(年齢要件を撤廃=18歳未満児童の情緒障害を治す。
学校教育を実施する
母子生活支援施設
(旧:母子寮)
配偶者のない女子又はこれに準ずる事情の女子とその児童単に保護するにとどまらず、その自立促進のため生活を支援する。

子育て環境 これからの課題


 児童福祉法の改正においては、「子どもの権利」という文言は盛り込まれませんでした(
そよ風72号「子どもの権利条約発効」参照)。ただ、施設入所の際には子供の意向を聞くことが必要とされたにとどまります(法26条2項)。
 また今回の改正は、従来からすでに行われていたことを法的に追認した部分も多くあり、これからの具体的な施策が何よりも問われています。
 保育所については、全国的な入所率は8割と充足しているようですが、現実には都市においてはまだまだ不足しており、とくに(1)0歳児や1歳児保育が絶対的に不足している、(2)保育時間の延長が不可欠、(3)自宅や勤務先に近く便利な場所に必要等々──少子化に歯止めをかけ、子育てを支援するためには、まだまだとるべき措置が山積しているのが現状ではないでしょうか。




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