平成10年1月1日施行

民事訴訟法 70年ぶり大改正

民事裁判の充実とスピードアップ…両立をめざして

民事訴訟の基本的な仕組み


 このたび民事訴訟法が、大正15年以来70年ぶりに大改正されました。
 といっても、「これまでの民事訴訟法の仕組みがどうなっているのかわからない」中には、「民事訴訟法ってどんな法律なのか、はっきりとは知らない」といった方もいらっしゃると思います。
 この法律は、人びとの間に、金銭や不動産・損害賠償などをめぐって種々の紛争が生じたときに、その当事者が裁判に訴えて解決をはかるための手続きを定めています。この法律の定める裁判の仕組みは、そんなに難解なものではありません。事実を追求するにあたってきわめて常識的なルールが規定されています。
 裁判をおこした側をA(原告)、おこされた側をB(被告)とし、事例で説明しましょう。
 「Aは、半年で返してもらう約束でBに200万円を貸したところ、期限が過ぎても弁済しないので、やむなく返還を求めてBに訴訟をおこした」とします。この場合、BがAの主張を認めて裁判が終了する場合もありますが、実際には多くの場合、Bは、「そんな金は借りていない」と否認したり、「金は借りたが先日友人のCに頼んでAの家族に全額を届けて弁済している」などと抗弁します。
 そうなるとAは、(1)「Bに金を貸した際の契約書や領収証」、(2)「Bに金を貸した際の立会人」などを、一方、Bは、(3)「返金した際に受け取った領収証」、(4)「Bからの返金を持参した友人Cやそれを受領したAの家族」などにより、それぞれに自分の主張を裏付けなければなりません。(1)・(3)の書類は「証拠書類」、(2)・(4)の立会人や友人、家族は「証人」です。これらを法廷で確認したり尋問したりして証拠調べが行われます。 そして、よりよく主張が証明された側に、判決により軍配があがる。簡単にいえば、これが民事訴訟の仕組みです。

めざせ訴訟の迅速化── 争点の集中的整理を促進


 裁判は、その審理が充実し、迅速に処理されることが望まれます。
 これまでもそのための努力はなされていましたが、審理が集中してなされないために、ともすれば、裁判手続きが長期化する傾向がありました。しばしば、五月雨審理と非難されていましたが、双方の主張をすべて尽くさせる以前の段階でも、これまでは、適宜に、証拠書類を調べたり証人尋問を行い、また、その後で主張がなされるということが行われ、審理のムダや長期化をきたす一因となっていました。
 それを、このたびの改正では、原則としてまず最初に、訴状をめぐる双方の主張をすべて尽くさせて争点を整理し、その上ではじめて、適切かつ効率的な証人尋問等の証拠調べを行うこととしました。この争点整理の充実は、訴訟の迅速化という点では、最も重要な改正点です。
 この点について、(1)争点整理の手続きを公開の法廷で行うもの(準備的口頭弁論、164条以下)、(2)当事者がひざを突き合わせた雰囲気で意見交換するもの(弁論準備手続き、168条以下)、(3)遠隔地等の場合に書面や電話会議システムで行うもの(書面による準備手続き、175条以下)の3つのメニューが設けられ、当事者の意見を聞きながら事案にふさわしい方法を選択できることとしました。
 そしてこの争点整理が終わったときには、その後の証拠調べで証明されなければならない事実が、当事者間ではっきり確認される状態となります(165条)。

証拠の収集手続きを充実させる


 迅速な裁判のためには、適切な証拠が、早期に確実に収集されなければなりません。このたびの改正法は、当事者照会制度という新しい制度を創設しました(163条)。これは、訴訟の継続中に、当事者の一方が、主張したり証拠にしたりする準備のために必要な事項で、相手方がそれを所持すると思われるものについて、相手方に照会し、回答を求めることができるとする制度です。
 この制度により、たとえば、製造物責任訴訟で設計図や製造工程表、交通事故訴訟で同乗者の住所・氏名、貸金請求訴訟で金を調達した経緯などを照会できます。照会を受けた相手方は回答の義務がありますが、不回答について法律上の制裁はありません。しかし不適切な対応は、裁判所の心証に影響することとなります。
 さらにこのたびの改正によって、裁判に必要な文書の提出義務が拡充されました(220条4項)。文書の所持者がそれを提出することによって特段の不利益を受けるおそれがない限りは、訴訟に協力すべき国民一般の義務として、提出義務があるものとするという、かなり思い切った改正を実現しています。
 なお、行政文書は、このたびの文書提出義務の拡充から除外されましたが、行政の情報公開について行われている検討と並行してさらに検討し、このたびの改正法の公布後2年を目処に必要な見直しが予定されています(附則27条)。

簡易な裁判はもっと早く ─少額訴訟手続きの創設


 このたびの改正では、少額事件訴訟の制度が創設されました(少額訴訟手続については、法のくすり箱参照)。
 対象となるのは、30万円以下の金銭支払請求訴訟ということに限定されていますが、この場合には、原則として1回の期日で審理を受け、ただちに判決の言渡しをすることができるようにしました。そして、判決においては、被告の資力等を考慮して、分割払いや支払い猶予の判決ができるようにするなど、現実的・具体的な判決となるよう配慮しています。一般市民が訴訟に見合った時間と費用とで紛争の迅速な解決を受けることができるようにしたものです。ただ、特定の人がこの制度を独占的に多数回使用することがないように、回数制限10回。最高裁規則223条)がなされています(368条以下)。

最高裁への上告は真に重要なものに限定


 従来、法令違反について実質的に上告理由のない事件が多く上告されて、最高裁の負担を重くしてきました。判決に影響する重大な法令違反があるということが主張さえされていれば、すべて審理して判決を出さなければならないということになっているため、ほんとうに必要な審理に力を集中する妨げとなる状況がありました。
 そこで、改正法は、上告受理制度(318条)を新設して、法令違反を理由とする上告を絞り込むことになりました。すなわち、法令の解釈に重要な事項を含むと判断された場合には上告が受理されますが、そうでないと認められた場合には、上告は不受理となります。
 もっとも、憲法違反や重大な手続法違反(絶対的上告事件、312条)に該当する場合には、法令違反についての制度である右の上告受理制度は適用されず、従来どおり、制限なく上告することができます。

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 このほか、民訴法の条文が、従来のカタカナ表記から現代語の表記に改められました。
 また、最近の情報通信機器の発達を活用することとし、たとえば、遠隔地にいる証人が必ずしも遠方の裁判所に出向かなくても、最寄りの裁判所に出頭して、テレビ会議システムなどで尋問ができることとなりました(204条)。




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