オーナー経営者の相続対策

─自社株と土地を中心に─



 「人は一生」に対して、「事業は永遠」といわれますが、同族会社の事業承継には2つの側面があります。後継者の育成(人的側面)と相続及び相続税対策(財産的側面)です。両者は有機的関連がありますが、ここでは後者の相続対策、その中でも自社株式と土地問題を中心に話を進めたいと思います。

自社株式の評価


[1]取引相場のない株式の評価方法

中小企業における会社支配株つまり同族株主が取得する株式のほとんどは、「取引相場のない株式」ですが、「財産評価通達」では、この種の株式の原則的評価方式として、(1)純資産価額方式、(2)類似業種比準方式、(3)両者の併用方式を定めています(他に、特例的評価方式として、少数株主等に対する配当還元方式がありますが、ここでは触れません)。
純資産価額方式とは、企業の有する個々の事業用資産を評価通達の定めによる時価で評価する方式、つまり企業の清算価値を前提とした評価方式です。
これに対し類似業種比準方式とは、配当金額・年利益金額・純資産価額について評価会社のみならず、上場類似業種の収益性指標を重要な評価要素として取り込む方式です。

[2]評価方法は会社の規模に応じた区分により異なる

同族会社は会社の規模に応じ、大会社・中会社・小会社に区分して評価方法を適用します。判定要素は従業員数・総資産価額及び年間の取引金額です。会社区分は別表のとおりです。
規模に応じた会社区分

 

 

 
直前期末以前1年間における従業員数に応ずる区分100人以上の会社は大会社
100人未満の会社は(A)及び(B)により判定
(A)直前期末の総資産価額(帳簿価額)及び直前期末以前1年間における従業員数に応ずる区分(B)直前期末以前1年間の取引金額に応ずる区分会社規模とLの割合(中会社)の区分
総資産価額(帳簿価額)従業員数卸売業卸売業以外の業種
卸売業卸売業以外の業種
20億円以上10億円以上50人超80億円以上20億円以上大会社
14億円以上20億円未満7億円以上10億円未満50人超50億円以上80億円未満14億円以上20億円未満0.90中会社
7億円以上14億円未満4億円以上7億円未満30人超50人以下25億円以上50億円未満7億円以上14億円未満0.75
8000万円以上7億円未満5000万円以上4億円未満10人超30人以下2億円以上25億円未満8000万円以上7億円未満0.60
8000万円未満5000万円未満10人以下2億円未満8000万円未満小会社
「会社規模とLの割合(中会社)の区分」は(A)欄の区分(「総資産価額(帳簿価額)」と「従業員数」とのいずれか下位の区分)と(B)欄の区分とのいずれか上位の区分により判定します。

[3]規模と評価方式の関係

 小会社は純資産方式か、純資産方式と類似業種比準方式の併用(50%ずつ)方式か、有利な方を選択適用します。
 中会社は併用方式です。ただし、中会社はその規模により、さらに中会社の大・中・小区分に細分され、大区分会社は類似業種比準要素割合が多くなります。
 大会社は類似業種比準方式と純資産価格のいずれか低い方です。

[4]株式評価方式の特徴と同族会社への影響

 純資産価額方式は、企業の財産を時価評価する方式ですから、土地の含み益等未実現価値も株価評価の要因になります。したがって、所有と経営の分離していない同族会社の後継者にとっては、高い評価を受けた自社株が換金処分の困難な経営支配株式であるため、相続税の支払原資に困難をきたすことにもなるわけです。

[5]自社株式の評価を下げるには

(1) 一般的には、含み資産の大きい会社は純資産方式より類似業種比準方式が有利であることから、小→中→大へと会社規模(総資産額・取引金額等)をグレードアップさせることが考えられます。たとえば、増資・借入等による総資産額を増加させるとか、外注先との材料取引を無償支給から有償に切替え取引金額を増加させる等です。但し、実態は小さいのに見せかけだけ大きい節税目的だけの会社は場合によれば、小会社になります。

(2) 経営者の持株比率の低い子会社を利用する。たとえば、土地等将来評価益の生ずるものは子会社に取得させるとか、収益部門を子会社へ切り離して後継経営者に任す等です。

(3) 利益処分による配当・賞与等を利用し、必要以上の留保利益を残さない。

(4) 死亡退職金を利用する。死亡退職金は純資産価額方式の株価計算上、負債とされるので功績倍率等を勘案した範囲内で高額なほど有利になる。

(5) 経常配当は低くし、特別配当・記念配当を高くする方が類似業種比準方式の株価計算の性格から、株式評価上有利に働く。


個人事業主の宅地の評価


(1) 小規模宅地等の評価特例
 遺産である宅地のうち200平方メートルまでの部分については、評価特例により、次のように評価減できることになっています。
死亡前の状況死亡後の状況減額割合



(1)亡くなった人が使用事業を引継いだ場合80%
(2)亡くなった人と生計をひとつにしていた親族が事業用に使用引続き事業用とした場合



(3)亡くなった人が使用配偶者が取得した場合
(4)亡くなった人が使用し、同居親族がある同居親族が引続き居住した場合
(5)亡くなった人が使用し、配偶者・同居親族がない相続開始前3年以内に自分及び配偶者を含め家屋を所有したことのない親族が取得する場合
(6)亡くなった人と生計をひとつにしていた親族(別居親族)が居住用に使用その親族が引続き居住した場合



(7)特定郵便局として使用引続き特定郵便局として使用
(8)同族会社の事業用として使用(不動産貸付業を除く)引続き同族会社の事業用として使用
(9)不動産貸付に使用――――→50%
(10)上記(1)〜(7)に該当上記(1)〜(7)以外の場合

(2) 贈与税の配偶者控除
居住用財産については、婚姻期間20年以上の配偶者に対し、最高1000万円までの配偶者控除が認められ、この範囲内では贈与税がかからないので相続以前に贈与を検討してみることも大切でしょう。

相続税の支払原資

以上で相続対策を述べましたが、これらはあくまで税金の軽減を目的とするもので、税金支払いそのものへの決定的方法ではあり得ません。支払対策として有利な方法の一つに、法人を契約者及び受取人とした生命保険に死亡退職金を絡ませておく方法があります。定期保険(掛け捨て=損金計上)を利用すれば、法人税への税効果と共に相続時の原資確保に役立つことになります。

公認会計士 鳩  泰 一




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