騒音のうるささと環境基準


 騒音は、従来の公害対策基本法(1967年=昭和42年制定、1993年=平成3年環境基本法の制定にともなって廃止された)に定められたいわゆる典型7公害(大気汚染・水質汚濁・土壌汚染・騒音・振動・地盤沈下・悪臭)の1つで、行政目標として環境基準が定められているから、その数値を満足すれば問題はなくなると一般に考えられているが、なかなかそうはいかないのだということを理解していただく必要がある。
 まず騒音の定義が望ましくない音(unwanted sound)であって、まったく主観的なものである故に、ステレオやピアノの音がいくら美しく響いていても、仕事や勉強の邪魔になり、睡眠を妨害する騒音になる。その音を聞く側の条件によってその影響は大きく変化する。たとえば、時計のカチカチという音が昼間はまったく聞こえないのに、夜になると聞こえだし、眠れない夜半には気になって止めてしまうというような経験は誰でももっている。したがって環境基準値もそのことを配慮して、地域の類型を3種に分け、時間帯も昼・夜と朝夕の3つに分けている。ただ、道路に面する地域は人間の条件ではなく車の条件で決められているので批判のあるところだが、社会生活上やむを得ないこととして同意できればあきらめることもでき、そのうち馴れてしまうということになる。
 うるささは非常に心理的なものであるから物理的数値ではまったく予断できないことがある。たとえば、引っ越した新居が郊外電車の線路に近く、その騒音に耐えられなかったが、その電鉄会社の株を買って株主になったら、その騒音がかえって快く聞こえるようになったという話がある。また隣の娘がひくピアノは自分の娘のピアノより音が小さいのにうるさく感じるものである。その極限としてピアノの音で殺人事件が一度ならず起こった。その音の大きさは、騒音計では測れないくらい小さかったという。夜半の時計の音と同じである。止めてしまわねばどうにもならないほどエスカレートしてゆくまでには何段階かのステップがあると思う。

<旧規定>騒音にかかる環境基準
−昭和46年閣議決定−

               単位:ホン
一般
地域
昼間朝夕夜間
AA:特に静穏を要する地域
A :主に住居の用に供される地域
B :商工業住居併用地域
45
50
60
40
45
55
35
40
50
道路に
面する
地域
昼間朝夕夜間
A地域:2車線道路に面する
A地域:2車線をこえる道路に面する
55
60
50
55
45
50
B地域:2車線道路に面する
B地域:2車線をこえる道路に面する
65
65
60
65
55
60
<測定・評価方法など>
 朝夕各1回以上、昼夜各2回以上、
騒音レベルの測定値が基準値以下であること
 なおこの基準は、平成11年4月1日より、
新たな基準が適用されました
(平成10年環境庁告示64号、「そよ風」98号参照)。

 「一度うるさいと苦情を言ったら、それではピアノを別の部屋に移すから聞いてみてくれと、2〜3回動かしてくれた。大して変わらないんだけれど、それ以上文句言えなくてね。そのうち馴れてしまったよ。」という話もきいた。そのような心づかいが嫌悪感のエスカレートを止めた例であり、騒音のうるささが、人間関係に深くかかわっていることを示している。
 自分の行動によって他人がどのような影響を受けるかということに心を配り、他人を尊重することが民主主義の基本であるはずなのに、日本ではその基本的な教育ができていないことを痛感する。これが完全にできれば法律の必要がなくなるかもしれないが、それが理想というものではなかろうかと思っている。

神戸大学教授  前川 純一




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