望まれる!未来を見すえた論議と展望

平成9年4月1日、消費税3%→5%に増税

消費税法・地方税法の一部改正

税率を5%に引き上げ国税分4%
地方消費税分1%


 平成元年4月1日から導入された消費税が、本年4月1日から増税され、3%の税率が5%(地方消費税を1%含む)に引き上げられました(註参照)。
 消費税は、物・サービスを問わず、国内で事業として行われる取引のすべてに課税されます。そして消費税が3%から5%になることで2%の引上げに伴う税収増は約5兆円(ただし政府が買うものにかかる消費税が0.7兆円あるため、ネットでは4兆円強)です。この消費税率の引上げは、消費者物価の水準を1.5%程度押し上げる要因となると見込まれています(平成8年7月経済企画庁試算)。
 ところで5%になった消費税率のうち1%は、国税ではなく地方消費税として徴収されます。消費に応じて各都道府県の収入となり、うち半分は、市町村に対し人口・従業者数に応じて交付されます。これまでの消費譲与税(消費税額の20%を地方自治体に譲与)は、地方消費税の創設に伴い廃止されました。

不公平な益税を制限限界控除の廃止
簡易課税の見直し


 またこのたびの改正で、中小企業者に対する特例措置の一部について廃止(限界控除制度)や見直し(簡易課税制度)が行われました。いわゆる「益税」を制限して公平な課税をめざす見地から評価されるところです。
 売上高が3000万円から5000万円までの間の事業者については、これまで限界控除制度といって、免税点(3000万円)を超えると税負担が一挙にふえるのをやわらげるために、3000万円を超過する程度に応じて3%よりも低い税率を適用したこととなるような激変緩和措置がとられていましたが、納付税額の軽減された分だけ「益税」となるところから、この制度は廃止されることとなりました。
 また売上高4億円以下の事業者に認めてきた簡易課税制度は、2億円以下の事業者についてのみ認めることに変更されました。簡易課税制度とは、仕入れにかかる消費税額の計算を、事業者の営む事業区分に応じてみなし仕入税率を用いて行う方法で、買手の支払った消費税が事業者の手元に残る「益税」をもたらすとの批判があります。ただ仕入率の区分をふやして益税の余地を限定する方向には進んでいます(当初は、事業区分は2種類だったが、平成3年に4種類となり、今度の改正で5種類となる)。将来、簡易課税から本則課税へ移行する事業者をふやしていくことが「公平」への要請となると見込まれます。
 なお、納税の基礎資料として、これまでは帳簿だけの保存でよいとしていたのを、請求書も7年間の保存を義務づけることとしました。ヨーロッパの消費税における伝票(インボイス)に、どう近づけていくかが注目されるところです。

改正対策としての先行減税と臨時給付金


 消費税の引上げは、消費税の支払いが消費の都度に日常的に行われることから、多大の痛税感を伴います。また、所得の低い人に負担が大きい逆進課税です。いくら税制全体としては累進的であり逆進性はないと説明されても無視できないところです。しかし、8年前と同じく、今回も、賛否の論議の多い中で、いつのまにか改正が現実のものとなりました。
 次の経過は(国民の理解や検討の見地からの問題はともかくとして)、少しでも早く消費税(間接税)を拡充したい財政当局の強い意思をうかがわせるものです。すなわち政府は、3年前から、恒久及び臨時の所得減税を先行させて、減税の引換えに増税の必要な状況をつくるとともに、増税のその年には、臨時給付金という一時金のアメを用意して消費税の拡充に腐心してきました。
 まず、政府は、平成7年から働き盛り世代に配意した所得税率の見直しを行い、すでに年間規模で3.5兆円の減収が恒久化しています。また消費税の引上げを国民に受け入れさせようとして(むろん不況に対する景気対策の意味もあったのですが)、約10兆円(平成6年5.5兆円、平成7・8年各2兆円)もの一時的な特別減税を所得税・個人住民税について行ってしまったので今更あとに引けないということです。
 次に政府は、消費税の引上げに対する国民の不満への対策として、この平成9年にかぎり、社会的弱者への臨時金として合計2000億円を計上して消費税改正への異論封じを用意しました。1人あたり1万円の給付金(福祉年金受給者・生活保護受給者などに支給)や3万円の給付金(低所得の寝たきり老人に支給)を、社会的な弱者とされる人びとに給付するという気の配りようです。

納税者は、公正で効率的な政府を望む


 このように、政府当局が消費税率の引上げに腐心する背景には、わが国の「少子・高齢化」の進行に対する財源上の危惧があります。このままいくと、2020年には65歳以上の人口比率が25%に達します。社会保障負担は増加するにもかかわらず、年寄りを支える働き盛り世代が減少し、2人で1人の年寄りを支えなければならず、わが国のような所得税中心型の租税制度では人の一生で働き盛りのときにぐっと重く税負担がかかります。このため、2人で1人のお年寄りを支えるのでは働き盛りの世代がつぶれてしまう。そこで租税制度の比重をもっと間接税(消費税)に傾けること(直間比率の是正)によって、わが国社会の「少子・高齢化」による税負担の問題をうまく乗り切ろうというのです。
 しかし前述のように、消費税は日常的に痛税感を伴う税金です。そして国民は、近年、バブル景気とその崩壊の過程の中で、これまでの税負担のもとではたして税は足りないのか、公正で効率的に使用されているのかについての疑問や不満を覚えるに至っています。政官財の癒着、消費者無視の規制、公的組織の利権集団化などが伝えられるたびに、わが国の行政や産業の仕組みに、多くの無駄遣いが巣くい、必要な改革が放置されていることが、国民に強く意識されるに至っています。もっと税金を生かしてほしい、無駄遣いされるのならばこれ以上払いたくないという、国民の心情に応える財源配分や機構改革・事業の選別淘汰が併行されなければ、税制への信頼が失われかねません。
 高齢化社会への税制として、たんに、機械的に直間比率を是正するというのではなく、公正で効率的な、しかもできるだけ公的サービスに対する税負担の軽い政府が国民には望ましいという原点を、つねに自覚していく必要があります。




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