勤労者財産形成促進法の一部改正
勤労者の計画的な財産形成を支援 |
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あなたは財形貯蓄制度を利用していますか?
財形貯蓄とは、勤労者の計画的な財産形成をすすめるために、事業主や国が積極的に援助しようという制度です。戦後の高度経済成長にともなって勤労者の賃金も大幅にアップしたにもかかわらず、その貯蓄や住宅など資産の面では非常に立ち遅れていました。そのため、昭和46年にこの「勤労者財産形成促進法(財形法)」が制定されたものです。
現在、大企業ではこの制度を取り入れ、広く活用しています。しかし中小企業では、その事務の煩雑さゆえかまだ財形貯蓄制度の導入は非常に遅れています。そこで今回は、この中小企業への一層の普及と新たな生活ライフに応じた給付金制度を導入することを目的に、財形法の改正が行われました。
財形貯蓄にはこんな種類とメリットが |
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財形貯蓄は、勤労者が銀行や郵便局などの金融機関や生命保険・損害保険会社などと契約を結んで預貯金の預入れを行うもので、事業主が勤労者の賃金から控除して支払う方法(天引き)が取られていることが特徴です(法6条1項〜5項)。一般の預貯金に比べて、利息は相対的に高く設定されています。
現在の財形貯蓄には、大きく分けると次の3つのタイプがあります。
1つは、まず勤労者財産形成貯蓄(一般財形貯蓄)といわれるもので、勤労者なら年齢等にかかわらず誰でも利用できます。貯蓄の目的は自由。預入れの期間は3年以上で、引出しは1年経過後となります。1人で複数の契約が可能です。
2つめは、勤労者財産形成年金貯蓄(財形年金貯蓄)で、老後の生活の安定を目的に積み立てられるものです。利用できるのは55歳未満の勤労者で、60歳から年金として受け取ることができます。期間は5年以上、1人1契約となっています。
3つめは、勤労者財産形成住宅貯蓄契約(財形住宅貯蓄)で、これは住宅の取得・増改築を目的とした貯蓄です。引出しの際には、住宅の建築工事契約書や売買契約書の提出が必要となります。利用できるのは同じく55歳未満で、期間は5年以上、1人1契約です。
とくに、財形年金貯蓄と財形住宅貯蓄については、両方の元本合計550万円までは非課税扱いとなる特典があります(法8条)。
また、こうした財形貯蓄をしている勤労者には、融資の面で大きなメリットがあります。まず、住宅資金を必要とするときに、返済期間の長い融資を受けることができます(持家融資、法9・10条。ただし、財形貯蓄1年以上続けていて残高が50万円以上必要。最高融資額4000万円)。また進学や受験・教育のための教育融資を受けることもできます(法10条の3。最高融資額450万円)。
育児・教育・介護のため計画的な出費を支援 |
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さて今回の改正点ですが、まず第1に、近年、勤労者の育児・教育・介護等に関する経済的負担が大きくなっていることに対処するためのものです。勤労者がこれらの出費に対して計画的に準備することができるように、新たに「財産形成貯蓄活用給付金」がもうけられました。
これは、次のような目的で勤労者が一般財形貯蓄を50万円以上引き出すとき、事業主が勤労者への援助のために支払う給付金です。(1)1歳未満の子の育児、(2)自分や子供の教育費、(3)自分や親族の介護費、(4)自己の健康の保持増進、これらの理由で一般財形を引き出すときに給付されます(規則14条の2)。一般財形貯蓄を1年以上継続していることが条件で、さらに労働協約や就業規則の中に当該制度をもうける必要があります。給付金の額は下表のとおりです(規則14条の3)。なお、この給付金は一時所得扱いでとなり年間50万円までは非課税となります。
一般財形貯蓄の引出額 | 給付金の支払額 |
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50万円以上100万円未満 | 1万5000円以上9万円以下 |
100万円以上150万円未満 | 2万5000円以上15万円以下 |
150万円以上 | 3万5000円以上21万円以下 |
一方、この給付金を支給した事業主に対しては、当該給付金の支出を必要経費・損金扱いとできることに加え、その給付金の額に応じて(給付金額を上限として)、国から財産形成活用助成金が支給されることとなりました(法8条の2)。なお、中小企業に対してはさらに優遇措置が取られています(施行令29条)。
財形制度を中小企業にも広めるために |
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次に、中小企業に財形制度をさらに普及するための措置です。
まず、利用率が低いのは、中小企業では事務処理体制が整っていないことがその理由とも考えられます。そこで、法人である中小企業団体で労働大臣が指定するもの(商工会議所や中小企業サービスセンターなど)がその団体の構成員である事業主の委託を受けて、一定の財形事務(賃金の天引きや事業主しか知りえない情報などを除いたもの)を代行できることとしました(法14条の2、勤労者の書面による同意が必要。この制度についてはすでに平成8年10月1日から施行中)。
また、転職先で財形制度が導入されていない場合、これまでは、その時点で財形貯蓄の継続は不可能となっていました。そこで新たに「特例自己積立制度」が創設されました(法6条9項、施行令14条の3)。
具体的には、転職先の事業主が構成員となっている前記の事務代行団体に、勤労者本人が直接送金した場合に、1年間に限り、財形制度における天引きとみなして財形貯蓄の継続ができるというものです。ただしこれは一般財形貯蓄のみが対象です。
この1年の間に、事務代行団体は、事業主に対して財形制度の導入を促す等の協力・指導を行います。
これらの改正により、中小企業への財形制度導入が促進され、より多くの勤労者が財形制度を利用できるようになることが期待されています。