<これは、平成8年12月号の「そよ風」に掲載された記事です。その後、平成13年(2001年)6月1日より、訪問販売法「特定商取引に関する法律」(特定商取引法と名称が改められました。>


電話勧誘販売にクーリングオフ適用
マルチ商法全会員を規制対象に
訪問販売法の一部改正〜H8.11.21スタート〜


 友人・知人からのように装い電話をかけてきて、よくよく話を聞いてみると、実は商品販売の勧誘電話だった。こんな経験は誰しも一度ならずあることでしょう。
 「訪問販売等に関する法律(訪販法)」(現在は、特定商取引に関する法律)が改正され、電話勧誘販売への規制が強化されました。さらにこれまでのマルチ商法(連鎖販売取引)に対する規制を一層きびしいものとしました。

電話勧誘販売にも訪問販売と同様の規制


 忙しい職場に突然しつこいセールスの電話がかかってきてなかなか切ることができず、「資料だけなら」とか「はい、はい」と適当に返事をしていると、契約をしたことにさせられ多額の請求がきた──こんな事例の相談が全国的に急増しています。
 従来、訪販法は訪問販売及び通信販売並びに連鎖販売取引とを規制してきました(法1条)。電話勧誘販売については特別な規定はなく、訪販法の中の通信販売の一つとみなされてきました。
 通信販売の場合でも、もちろん、くわしい提供条件を明らかにする義務がありますし、あるいは誇大広告が規制されるなどといった規定はあります(旧法8条〜9条の3、新法11〜15条)。しかし、訪問販売と大きく異なり、クーリングオフ(後述)についての保護規定が定められていません。そのため、一度契約すると、法的には消費者からの一方的な解約はできないのです。
 しかし電話勧誘は、プロのセールスマンが突然消費者の日常に入り込んで契約をするという訪問販売と同様に、十分消費者に考える余裕が与えられない面があり、じっくり考えて申し込める通信販売とは異なるものといえましょう。そこでこのたび、全国的に電話勧誘による被害が増大することに対処するため、訪販法の一部が改正され、電話勧誘販売にも訪問販売と同様の規制が加えられることになりました。(なお、訪販法のさらにくわしい説明はそよ風38号参照。また、平成13年6月1日より、訪販法は「特定商取引に関する法律=特商法」と名称が改められ、現在では6つの取引形態を規制しています。くわしくはそよ風111号133号162号参照

勧誘電話であることをはっきり告げること


 まず、勧誘電話をかける際には、(1)販売業者の氏名・名称、(2)電話で勧誘している本人の氏名、(3)商品等の種類、(4)契約締結のための勧誘を目的とする電話である旨を、消費者にはっきり告げなければなりません(旧法9条の4=新法16条)。そして、勧誘を断った消費者に再び勧誘をすることは禁止されました(旧法9条の5=新法17条)。これは、あまり何度もしつこい電話がかかってくるので根負けして契約するケースが少なくないためとられた措置です。
 契約の申込みや契約締結がなされたときには、業者はただちにその内容を記載した書面を交付しなければなりません。この書面には、商品等の価格、支払時期と方法、商品等引渡しの時期、業者の住所・名称・電話番号・代表者氏名、担当者氏名、申込みあるいは契約締結の年月日、商品名・製造者名、商品の型式・種類、商品の数量、そしてクーリングオフに関する事項が明記されることになります(旧法9条の6・9条の7=新法18・19条、旧規則11条の2・11条の3=新規則15・18条)。

8日以内ならクーリングオフOK


 この書面を受け取った日から数えて8日以内なら、消費者は無条件で申込みの撤回・契約の解除ができます(旧法9条の12=新法24条)。これがクーリングオフとよばれる制度です。撤回の理由なども一切必要ありません。
 ただしこの撤回は書面で行なう必要があります。後のトラブルを防ぐためには内容証明郵便で出されるのがよいでしょう。クーリングオフは、消費者がその旨の書面を発したときから効力をもつとされます。

 クーリングオフをすると、契約ははじめからなかったこととなります。もし代金を支払済なら業者はこれをすみやかに返還する義務がありますし、商品の返送などの費用もすべて業者の負担となります。すでにサービスを受けた場合でも、その分の代金を支払う義務もありません。家の外壁工事などのように現状が変更されているなら、費用は業者もちで、元の状態にもどすように請求することもできます。
 契約の中で、クーリングオフは「認めない」あるいは「放棄する」などの記載があったとしても、消費者に不利な取決めは無効となります。
<また、こうしたクーリングオフを妨害する行為があったときには、たとえクーリングオフ期間の8日間がすぎていても、いつでもクーリングオフできることとなりました(平成16年11月11日施行。くわしくはそよ風133号参照)>

悪質な業者には罰則規定


 なお、電話勧誘に際して、契約時や解約時の判断に影響を及ぼすような重要なこと<効能・商標(製造者名)・販売数量・必要数量・効果・対価・支払時期と方法・商品引渡しやサービス提供時期・契約の撤回解除・契約締結を必要とする事情(平成16年11月11日より列挙。新法21条1項・規則22条の2>についてウソを言ったり、あいはこれら重要な事実を故意に言わなかったり、威迫して困らせて半強制的に契約をさせるようなことは禁止されます (旧法9条の9=新法21条)。これに違反すると2年<平成21年12月より”3年”>以下の懲役または300万円以下の罰金が科されます(併科あり。旧法22条=新法70条)。また、(a)クーリングオフに伴う代金の返還などになかなか応じない、(b)契約・解約の判断に影響を及ぼす重要な事実を故意に言わない、(c)迷惑を感じるほど、しつこく勧誘したりクーリングオフを妨げる、(d)老人その他判断力の不足に乗じる、(e)顧客の知識・経験・財産からみて不適当な勧誘をする(平成16年11月11日より追加)、(f)契約書面に年齢・職業など虚偽の記載をさせる、(g)クーリングオフができないようにすぐに商品を使わせてしまう、このような行為があったときは、主務大臣は善処を指示し、それに従わない場合は100万円以下の罰金が科されます(旧法9条の10・23条=新法22・72条、旧規則11条の8=新規則23条)。
 さらに指示にも従わず、違反がひどいときには、1年以内の期間を限って、業務の全部または一部停止を命ずることになります(旧法9条の11=新法23条)。

トラブルを生むマルチ商法


 今回の訪販法の改正で、もう一つ、連鎖販売取引(いわゆるマルチ商法)についての規制も強化されました
 マルチ商法とは、商品等の購入契約をして会員になり、その後新たな会員を誘えば手数料(勧誘料・リベート等)がもらえる仕組みで、その会員がさらに新たな会員を集め……この繰り返しでピラミッド式に増やそうというシステムです。ふとん・なべ・健康食品等々、取り扱われる商品・業者はさまざまです。しかし、加入の際に高額な負担がある上、新会員を勧誘すれば手数料が入るというのは建前で、ネズミ算で明らかなように、たとえば1人が5人ずつ勧誘したとすればたった12代目で日本の人口を超えてしまうことになり、現実に手数料でもうかるのはほんの一部の人に限られるわけです。しかも無理な勧誘は友人・知人との関係までも壊しかねない恐ろしさがあります。経済的な負担と人間関係の破綻を伴う、問題の多い商法といえましょう。

下部会員まですべてを規制の対象に


 訪販法では、加入料・商品購入料あるいはサンプル商品の購入が必要等々、いかなる名目であれ、実質的に合計して2万円以上の負担(特定負担)が強制されれば、訪販法が適用されます(施行令7条)<この規定は、平成13年6月1日の新法への名称変更と同時に改正され、現在は、加入に際して、金額のいかんにかかわらず何らかの金銭的負担があれば法の対象となります>。
 しかしこれまでは、法規制の対象となるのは、勧誘の中心である統括者と、その統括者から依頼を受けた勧誘者だけに限られ、ほんとうにマルチ商法で勧誘に当たっている下部の会員については規制の外にありました。そのため今回、「連鎖販売業を行なう者」として、勧誘に実際に携わるすべての会員も規制の対象としました(旧法12条=新法34条)。
 さらに禁止行為のうち、勧誘やクーリングオフに際して、故意に事実を話さなかったりあるいはウソを言ってはならない事項を具体的に列記しました。(a)商品の種類・性能・品質、あるいは権利・サービスの種類と内容、(b)特定負担について、(c)クーリングオフを含め契約解除について、(d)特定利益(新会員をふやしたときの手数料等)について、(e)その他取引の相手方の判断に影響を及ぼす重要なこと。
 これに違反すると、2年<平成21年12月より”3年”>以下の懲役または300万円以下の罰金に科せられますから注意が必要です(併科あり。旧法22条=新法70条)。

マルチ商法のクーリングオフは20日以内に延長


 広く実際に勧誘に当たる会員にまで規制の対象を広げたことに対応し、次のような措置がとられました。
 連鎖販売を行なう者が取引の条件となる特定負担の契約をするときに交付すべき書面を交付しなかったり、あるいは記載事項が欠けていたり虚偽が記載されている場合には、6ヶ月以下の懲役または100万円以下の罰金が科されることになり、罰則が強化されました(併科あり。旧法22条の2=新法71条)。
 また、実際に自分が勧誘にあたってみて、続けるかどうかをよく考えてみる機会を与えるために、クーリングオフの期間を、従来の14日から20日間に大幅に延長しました(旧法17条=新法40条)。
<平成16年11月11日より、もしクーリングオフを妨害するような行為があれば、いつでもクーリングオフできるなど、契約の撤回・取消しが一層容易になりました。さらに、会員は、いつでも中途解約できることが明文化され、購入した一定の商品についても返品が可能となっています。(くわしくはそよ風133号参照)>

ひるまず対処を!弱さにつけこむ悪徳商法


 悪徳商法に対処するには、何より契約は慎重に行なうことです。そして契約する意思がないなら、そのことをはっきりと言って毅然と断ることが肝要です。だまされたと思ってもあきらめず、クーリングオフを活用するほか、消費者センターなどに相談して粘り強く交渉することが大切です。
 なお、訪販法(現在は特定商取引法)の対象となっているのは、訪問販売や電話勧誘などでは、あらゆる商品・権利・サービスではなく、施行令で指定された「商品」(モノ)55種、「権利」3種、「役務」(サービス)17種に限られています。これでは被害が出てからの後追い規制になるとの批判もあります。訪販法の全面的な改正も今後検討されねばなりません。<平成21年12月1日から,いよいよ「商品」と「役務」の指定制が廃止され,原則としてあらゆる「商品」「役務」が対象となりました。(くわしくはそよ風162号参照)>

苦情・相談はこちらへ
訪問販売協会東京:03(3357)6019
大阪:06(6946)9654
名古屋052(931)5889
福岡:092(575)2798
通信販売協会03(3434)0550
その他各自治体の消費生活センターや、各弁護士会の被害救済センターへ




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