公営住宅法大改正

必要な人に必要な住宅の
的確な供給をめざして

老齢者入居基準の緩和・家賃の収入スライド制など

変わる住環境と公営住宅の役割


 昭和26年、戦後の住宅難の中で「公営住宅法」は制定されました。これは低所得者層に、地方公共団体が公営の賃貸住宅を建設して提供しようというものです。全国で約300万戸が建設され、現在では借家の13%(209万戸)を占めています。
 時代は変わり、近年では、住宅の総数は総体として足りるようになったといえましょう。しかし新たに今度は、いかに豊かな住生活を提供できるのか、ほんとうに必要としている人に必要としている住宅を提供しているかが問われるようになりました。このたびの改正は、こうした新たな時代を迎え、法制定以来の抜本的な改正となりました。


高齢者・障害者には収入基準を緩和

 公営住宅に入るには、原則として(1)同居親族がいる、(2)一定以下の収入しかない、(3)現に住むところに困っていることが必要です。この(1)の収入要件については、従来、全世帯を収入別に分布させたとき、収入の低い方から33%までにあたることが基準とされてきました。
 しかし高齢者や障害者は、収入の多寡に関係なく、民間の賃貸住宅がなかなかみつからない実情があります。そこで、高齢者と障害者については、右の収入分布の40%まで収入の基準を引き上げることができるようにしました(法23条2号)。さらに、老人等の世帯には単身者でもよいという規定がありますが、このうち年齢の規定を50歳以上の者(従来は男子60歳、女子50歳)として条件を緩和しました(施行令6条)。


優良賃貸住宅との役割分担

 その一方、それ以外の世帯については収入基準を従来の収入の低い方から33%までを25%までときびしくする措置がとられています。これは、収入が25%以上の世帯については、平成5年に制定された「特定優良賃貸住宅の供給の促進に関する法律」が適用されるからです。この法律は、中所得者層により良質な賃貸住宅を安く供給しようとする法律で、一定の床面積や施設をみたす民間・公社・公団等の賃貸住宅については、その建設費用・家賃などに公的な補助が行われます。所得に応じて家賃の補助が行われるこうした特定優良賃貸住宅は、すでに各自治体で広く募集がなされています。
 ちなみに、収入分位25%は標準4人世帯で年収約500万円、40%は標準4人世帯で年収約600万円となります。


家賃は収入に応じて負担する

 これまで家賃の算定は、公営住宅の建設にかかった費用をもとに負担の限度額が算出されていました。しかし地価の暴騰とともにこの限度額が高くなるばかりで、現実の家賃の基準になりえない現状でした。
 それを、基本的には、入居者の収入に応じた家賃とすることにしたものです。入居者は毎年その所得を申告し、これに応じた基礎額が決まります。そしてこの基礎額に、[1]市町村ごとの偏差値(0.7〜1.69)、[2]床面積の合計(70平方メートルを基準とした割合)、[3]経過年数(1以下)、[4]設備や立地の利便性(0.7〜1)を加味して、現実の家賃は決定されることになります(法16条、令2条)。

家賃算定基礎額(施行令2条2項より)
入居者の収入
12万3000円以下3万7100円
12万3000円〜15万3000円4万5000円
15万3000円〜17万8000円5万3200円
17万8000円〜20万円6万1400円
20万円〜23万8000円7万090円
23万8000円〜26万8000円8万1400円
26万8000円〜32万2000円9万4100円
32万2000円を超える10万7700円
入居者の収入とは、入居者および同居者の所得税法上
の所得金額から、控除対象配偶者・扶養家族・老人扶
養親族・障害者等々についてそれぞれ定められた一定
の金額を控除した金額を12か月で割ったもの

 また、近傍同種の住宅の家賃が、公営住宅の家賃の法律上の上限となります。


民間住宅の買取りや借上げ利用も

 公営住宅は、これまですべて、県営・市営など地方公共団体が直接建設してきたものに限られていました。しかし地価の高騰で新たな用地獲得は、大都市圏ではむずかしくなってしまいました。
 今回の改正では、広く、民間や公社・公団が新設したりすでに所有している住宅をも利用して、すでにあるものをできるだけ活用できるようにしました。つまり、「建設」のみに限らず、民間住宅等をも公営住宅として買い取ったり、あるいは借り上げることもできるようにしたものです(法2条4・6号)。この改正により、さらに広く供給することができることとなりました。
 なお、従来の第1種・第2種の種別区分は廃止されました。


建替え後の家賃上昇は段階的に行う

 これまでは住宅の戸数を増やすのが第一義的な課題でしたから、古くなった公営住宅を建替えるには、従来の戸数の1.2倍以上の戸数にしなければなりませんでした。
 今回の改正でこの要件を廃止し、戸数については従来と同数か、あるいはデイサービスセンターなどの社会福祉施設等を併設するなら従来実際に居住していた世帯数があればそれでよいことになりました(法36条3号)。
 また、建替えによって新築されるのはいいのですが、従来は家賃が急激に高くなってやむなく出ざるを得ない場合もありました。今改正で、家賃は原則として収入に応じて決まるとはいえ、やはり設備の充実・床面積の増大などに伴う家賃の増額は避けられません。そこで、建替後の家賃と従来の家賃の差額については、6年間に分けて6分の1ずつ徐々に引き上げる措置がとられることになりました(法43条、令11条)。


不正入居者などの明渡し措置を強化

 公営住宅はあくまで住宅に窮する低所得者のための住宅です。そのため、収入が多くなったり、あるいは所得などを偽って入居した場合は、明け渡さねばなりません。
 まず、入居後3年以上たって収入が一定の基準を超える者については、明け渡せるよう努力してもらう一方、家賃もその収入に応じて、近傍同種の住宅の家賃との差額について、一定の割合で支払ってもらうこととなります(法28条、令8条)。
 さらに入居後5年以上たって高額所得者となった場合には、6ヶ月以上の期限を定めて明渡しを請求することとなります。この場合、明け渡すまでの間は近傍同種の住宅の家賃と同額の家賃を支払ってもらい、明渡し期日をすぎてもなお住みつづけるときには近傍家賃の2倍までの家賃を請求することができます(法29条)。
 また、所得や同居親族などについてウソの申告をしたりして不正に入居していることが発覚した場合、これまでは明渡しだけでよく、強い罰則はありませんでした。そこで規則をきびしくし、これまで住みつづけていた期間すべてにさかのぼって、近傍同種の宅の家賃との差額(年5分の利子をつける)を支払ってもらい、明渡しを請求した日から現実に明け渡すまでの間近傍家賃の二倍までの家賃を請求することとなりました(法32条)。


従来からの公営住宅には平成10年4月から適用

 これらの規定は、新たにこの8月30日以降に整備された公営住宅について適用されます。
 そして従来からの公営住宅に住んでいる人については、2年後の、平成10年4月1日から完全に適用されることとなっていますので、ご注意下さい。




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