1996.7.20〜海の日〜

海の憲法「海洋法条約」発効

領海12海里・接続水域24海里・排他的経済水域200海里

海の憲法――「海の日」から発効

 海の憲法ともいわれる海洋法に関する国際連合条約」は、1973年から1982年の10年もの長きにわたって審議され(第3次海洋法会議)作成されたものです。すでに1994年11月に発効していますが、このたび、日本もこの条約に加入すべく批准手続がとられ、初の「海の日」となった今年の7月20日から、日本についても発効することとなりました。
 昔から、公海は自由な海として、誰のものでもなく、自由に航行できるとされてきました。しかし第2次世界大戦後、大陸棚で海底油田を初めとする資源開発が現実のものとなり、さらには漁業資源をめぐって各国の間ではげしい競争がなされるようになりました。そのため、領海は従来の3海里(1海里は緯度1分の長さで、1852m。したがって3海里は約5.6km)という原則から、12海里・24海里が主張されるようになり、ときには200海里説まで出されたのです。いったい沿岸国の権利をどこまで認めるのか、限りある海の資源を人類共通の利益とどう合致させていくのか、内陸国と沿岸国、また先進国と発展途上国との利害の調整は……等々、これらに回答を与え、海にひとつの法秩序を打ち立てたまさに画期的な海の憲法――それが「海洋法条約」といえましょう。

領海は12海里以内――無害通行権を認める

 国家の主権が及ぶ海を「領海」といいます。沿岸国はこの領海を12海里(=約22.2km)の範囲内で設定できることと定められました(3条)。ちなみに日本の場合、従来より、「領海法」で12海里と定めてきました。
 この領海を決める(測る)ための基準となるのが、「基線」とよばれるもので、大潮のとき最も潮が引いた状態の海岸線が基本的にとられています。日本の場合には、海上保安庁作成の大縮尺海図にこの基線が記載されています(領海法施行令)。領海はこの基線から12海里の帯状の海となるわけです。
 もっとも、隣国と領海どうしがぶつかりあう場合には、その中間線を原則としてとることになっています(15条、両国で別の合意があればそれに従う)。
 この領海では、領土とまったく同じく完全に国の権利(したがって法律)が及びます。さらに、領海の上空は領土の上空と同じく、許可なく立ち入ることはできません。
 しかし海については、歴史的に「無害通行権」というものが互いに認められており、船舶の航行だけは、沿岸国に脅威を及ぼさない限りにおいて認められています(17・19条)。その際、迅速に通過することが義務づけられ、停船は遭難者を助けるなどの必要に迫られた場合だけに限られます(18条)。また潜水艦については、浮上し、その国の旗を掲げて運行せねばなりません(20条)。
 さらに沿岸国では、航路帯や分離通行帯を指定して、そこを通るように要求することもできます(タンカーや原子力船・核運搬船の場合は特別な文書の携帯も必要。22・23条)。またいざ自国の安全が脅かされる非常の事態となれば、一時的に外国船籍の船を全面的に通行停止にすることもできます(25条)。

排他的経済水域の新設――200海里以内の資源管理

 この領海の外、さらに12海里以内(基線からは24海里=約44.4kmとなる)は「接続水域」と呼ばれ、通関上・財政上・出入国管理上・衛生上の違反について処罰したり、防止措置をとったりすることができます(33条)。
 そしてさらにその外の海について新たに「排他的経済水域」が認められました。これは、基線から200海里=370.4km以内と定められています(第5部、58条)。この領域では、沿岸国が、水中・海底・さらにその下の資源をすべて排他的に管理することができます。
 従来日本では、「漁業水域に関する暫定措置法」(1977年制定)によって、とりあえず漁業面について200海里水域を主張していたのですが、今回の海洋法条約批准に伴って新たに法整備を行い、「排他的経済水域及び大陸棚に関する法律」と「排他的経済水域における漁業等に関する主権的権利の行使等に関する法律」が制定されました(いずれも7月20日施行)。
 この排他的経済水域を認めることにより、公海は従来より30〜40%も狭くなったといわれています。沿岸国には、こうした排他的権利が与えられる一方で、その海の漁業資源を守り、さらに海の環境をも守るという重大な責任が、同時に、与えられているのです(56・61条)。
 そのため、日本でも国内法を整備し、新たに「海洋生物資源の保存及び管理に関する法律」を制定しました(7月20日施行)。農林水産大臣が基本計画を作成し、具体的な数量を把握した上で漁獲可能量を割出し、それを各都道府県に割当て、各都道府県知事は都道府県計画にしたがってさらに具体的な措置をとることとなります。
 またこうして出された漁獲可能量を自国だけでは採れない場合には、一定の条件を付けて外国船にも漁獲を許し(62条)、これ以外の無許可での外国船の操業についてはだ捕することもできます。しかし、保証金の支払等があった場合はすみやかに釈放し、罰則も原則として拘禁刑を課することは認められていません(73条)。
 このため、国内法でも保証金支払と保釈についての手続が盛り込まれ、さらに無断操業や海洋汚染への罰金が大幅に引き上げられました。

「大陸棚」――海底と地下の資源管理

 この200海里に及ぶ排他的経済水域とは別に、「大陸棚」についての規定が設けられています(第6部)。
 大陸棚とは、本来、海岸から深さ200メートル位までの浅い海がたな状に続いている部分をさすことばで、この海域は豊富な海の資源に恵まれています。そのため、従来からとくに条約などで規定が設けられていましたが、海洋開発の活発化にともなって、たな状部分から深海に至る傾斜部分をも広く「大陸棚」と規定した上で、排他的経済水域との調整がはかられました。
 すなわち、基線から200海里までの部分はすべて「大陸棚」と規定し、さらに200海里を超えて大陸棚が続いている場合には、国連の勧告を受けて大陸棚としての指定ができることとなります(76条)。
 この「大陸棚」では、海底とその下の資源について、沿岸国の主権的権利が認められます(77条)。つまり、海底に生息するカニや貝、あるいは地下の石油などの資源については権利がありますが、水中の魚については除外されるわけです。

公海の自由は、従来どおり認める

 こうした規定により、排他的経済水域より外側が「公海」(第7部)となります。
 公海では、(1)航行の自由、(2)上空飛行の自由、(3)海底電線・パイプライン敷設の自由、(4)人工島その他施設を建設する自由、(5)漁獲を行う自由、(6)科学的調査を行う自由が、それぞれ認められています(87条)。
 逆に、排他的経済水域では、沿岸国以外には上の(1)・(2)・(3)の自由だけが認められています(58条)。また、200海里を超える大陸棚の上の海は、「公海」とはいえ、上の(1)・(2)・(3)に加え(5)の漁業の自由が認められるものの、(4)・(6)については制限がおかれています。

深海底とその資源は、人類共同の財産

 海洋法条約では、さらにこれ以外の「深海底」についても定められています(第11部)。
 とくに、「深海底及びその資源は、人類の共同の財産である」(136条)と明文化して規定し、深海底はいずれの国のものでも誰のものでもなく、人類全体の利益のために平和目的での利用に開放されていると、大原則が定められました。
 そして国連の中に「国際海底機構」が設置され(条約締結国によって構成される、本部:ジャマイカ)、深海底の資源の管理にあたっています。海底機構の中には、実際に深海底の開発に直接たずさわる「事業体」(エンタープライズ)が置かれているほか、国や私企業に開発の許可を与える場合もあります。

国際海峡と群島水域――通行権を絶対的に保障

 ちなみに、「群島国」については特別な規定が設けられ(第4部)、直線基線という特別な基線が認められました。これは複雑な海岸線をもつ場合でも認定されているのですが、群島国の一番外側の島の海岸線を直線で結んで、その中は群島水域として、領海と同様の権利を認めるものです。
 そしてこの群島水域と、国際航行に使用されている海峡(第3部)については、領海ではあるけれども、船及び航空機が自由に通過通行する権利を与えました。これはどういう状況にあれ、すべての船・航空機に与えられる権利です。ただし、沿岸国は航路帯や分離航行帯を決めて、その通過だけを指定することができます。
 ちなみに日本の場合、国際海峡は5つあり、宗谷海峡・津軽海峡・対馬海峡東水道・同西水道・大隅海峡がそれにあたります。

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 さらに、海をめぐってのさまざまな争いを処理する機関として、国際海洋法裁判所が設置されています。またここでの裁判の他に、調停や特別仲裁といった手続も制度化されて紛争に対処することになっています(第15部)。
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 海洋法条約の批准にともなって、前述のとおり、日本の国内法も一斉に整備されました。しかし現実の日本は、中国との間に尖閣諸島の問題、韓国との間には竹島の問題、そしてロシアとの間には北方領土の問題を抱えています。いずれもきわめて重要な問題だけに、それにふさわしい賢明な取組みが望まれます。

★☆批准☆★
 国家として条約を締結する旨の最終的意思表示。
 国内法の場合には、国会で制定・成立した後、広く国民にその内容を知らせるための「公布」(天皇の国事行為)がなされ、さらに実際にその法律の効力を発生させる=「施行」という手続がとられる。
 これに対して、条約締結手続はまったく異なるルートをとる。外交交渉により条約内容が合意成立したら、各国の全権代表がその内容に間違いのないことを確認するために「署名」(調印・記名ともいう)を行う。これにより条約の内容は確定し、以後修正はできない。さらに多くの条約においては「批准」を効力発生の要件としている。これは条約締結の過程に国民の代表意思を反映させるため国会での審議を経るよう、さらに正確で全体的な再検討の機会をもつためとされる。日本国憲法では、条約は、国会が承認し、内閣が批准し、天皇が認証することとなる。
 批准書は交換・寄託の手続を経て最終的に効力を発揮するようになる。多数国条約の場合、一定数の国の批准により発効する規定が置かれている場合が多く、海洋法条約でも60ヶ国の批准を待って1994年11月に発効した。日本はこの6月20日に批准書を国連事務総長に寄託し、規定により1ヶ月後の7月20日発効することとなった。
 ちなみに、署名したからといって批准の義務が生じるわけではないが、署名をした国は、条約の対象・目的を阻害する行為を慎む義務を負うと考えられる。

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