
お金を貸す場合の心得

知人に借用証をとらずにお金を貸したが、一向に返してもらえないのでどうしたらよいかとか、極端なのは、借りた覚えがないと借主側に言われて困っているという相談さえ受けることがあります。
親兄弟とかあるいは全くの他人であっても、その相手にお金をあげるつもり、すなわち、たとえ返してもらわなくても構わないという堅い決心のもとにお金を貸すという場合は別ですが、いやしくも返済を期待して貸す以上、それなりの心得が必要と思いますので、それを述べさせて頂きましょう。
- [1] まず、借用証を作成することが第一です。これは特別な形式は必要なく、貸付金額・返済時期、利息を要求するときはその率などを便箋や紙切れに書いても有効ですが、もっとも重要なことは、借主の名前を借主自身に書いてもらうこと、すなわち署名してもらうことと、貸付金額を借主自身に書いてもらうことです。
数年前、神戸のある小さな建設業の経営者がその経営者の家に住込みで働いていた職人から借金を申し込まれ、2ヶ月くらいの間に2回にわたり合計金300万円余りを貸しました。最初は借用証なしで、2回目のときには、その経営者の奥さんが紙切れに借用証本文を書き、職人に「名前を書いて下さい」と言ったところ、「わしは字が書けんから、奥さん、書いといて下さい」と答えたので、奥さんが仕方なく職人の名前を書き、本人の三文判を押しておきました。ところが、その後間もなく、この職人が交通事故で即死したので、関東に居住している唯一の相続人である母親に貸金の返還請求をしたところ、母親は、借用証は息子の文字でないから息子が借りたかどうかは分からないと言い出し、裁判になりました。結局、裁判所は他の事情も併せ、経営者が職人に300万円余りを貸したと認めるに足る証拠がないと判決し、経営者の主張が通らなかった例がありました。
貸付金額を借主自身に書いてもらうということは、これも貸主が勝手に書いたのであってそのような金額は借りなかったと借主に言われることのないようにするためです。その他、借主の押印もあった方がよいですが、三文判より実印が望ましいでしょう。
なお借用証には、貸付金額が1万円以上10万円以下の場合は200円、10万円を超え50万円以下は400円、50万円を超え100万円以下は1000円というように、金額に応じて収入印紙をはる必要がありますが、印紙をはらなくても税法上の問題は別として借用証の有効・無効には関係ありません。
- [2] 次に、所定の手数料を支払って借用証を「公正証書」として公証人役場で公証人に作成してもらうことができます。この場合は、借主が約束の期日に返済しないときには、直ちに借主の所有財産を差押えることができ、貸金回収の有力な手段となり得ます。
- [3] しかし、借用証だけでは不安がある場合には、資力のある人に保証人になってもらうのも良い方法です。この保証人は、ただの保証人ではなく、必ず連帯保証人にすべきです。なぜなら、連帯保証人は借主本人と変わらない責任がありますので、借主が支払わない場合は、直ちに連帯保証人に対し借主に対するのと同じように返済の請求ができるからです。
- [4] さらに貸金の額が大きい場合には、借主や第三者所有の不動産を抵当に入れさせたり、あるいは代物弁済契約の予約や担保のために借主の不動産の所有名義を貸主に移させる譲渡担保制度を利用することが望ましいのです。これらの場合には司法書士に登記を依頼する必要があり、関係者の間で事前に詳細な打合せをしておくことが大事です。
- [5] その他、借用証は一切とらずに、借主より借用証の代わりに手形を振出させて貸金をするケースが相当広く行なわれています。これは、借主が期日に返済しない場合に、貸主は通常の訴訟とは異なった簡易・迅速な「手形訴訟」という特別な訴訟を起こすことができ、そこで手形判決をもらって借主の財産を差押えることができるという意味では有力な方法といえます。しかし一大欠点は、借主に資産がなければ差押えができず、手形判決も絵に書いた餅となってしまうことです。したがって手形のみによる貸金の場合は、借主に相当の資産があることも前提とすべきだと考えます。
弁護士 M


ホームページへカエル
「金の貸し借りQ&A」目次へもどる
次のページ(担保や保証人をとる場合の心得)へ進む