
コメに新たな時代―H7.11.1スタート
半世紀にわたる食管法の廃止と
新食糧法の制定
コメ競争激化・自主流通米が主役に

- 半世紀の長きにわたり私たちの主食である米の流通を規制していた「食管法」(食糧管理法)が廃止され、昨年11月1日より新たな「食糧法」(主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律)がスタートしました。いったい米はこれからどうなるのでしょうか。
今回は、消費者にとって身近でありながらわかりにくかったこの米の問題をとりあげましょう。
戦争により食料事情が逼迫し、主要食物が配給制となっていた時代に旧食管法はまとめられました(1942年)。
生産された米は、農家の自家用分をのぞきそのすべてを政府が買入れ、それを国民に公平に配給するためのシステムを制度化したものです。そのため、米の集荷・卸・小売りのすべての流通ルートを国が指定し、米の買入価格や販売価格もすべて国が定めていました。
戦争が終わっても食糧難は続き、1960年代ころまでは米は国内生産では足りず輸入を繰り返していました。そのため戦時下で作られた食管法も有効に機能し、乏しい米を国民が分け合うことが続いたわけです。
ところがその間、同時に高度経済成長が始まり、国民の所得もアップし、食料も多様化し米中心の食生活に変化が起きてきました。それに伴って、少々高くてもおいしい米をという消費者の要求が強まり、戦前・戦後を通じてあったいわゆるヤミ米に加えて、食管法で管理された米の中からもいつの間にか流通の過程でおいしい米だけが抜かれて高値で売られるようになります。
その一方、供給量が絶対的に足りないため本来なら高くなるはずの米価を低く抑えていた影響で、農家の所得と他産業の所得との間に格差が広がりました。これを解消するため、政府が買い上げる米の値段(生産者米価)は大幅に引き上げられていきました。生産者米価は、生産費と農家の所得を補償するに見合う額とすることになり(1960年)、以降、賃金上昇とともにこの生産者米価も年々アップします。これに対して消費者米価は、家計の安定のためということもあり逆に低く抑えられ、いわゆる「逆ざや」現象も起きてきます。
生産者米価の上昇に呼応し国内の米生産量は年々増えつづけ、1970年代に入ると、今度は生産過剰・米余りの時代がやってきます。1972年には720万トンにのぼる空前の在庫を政府は抱えることとなります(これは1年間の米流通量とほぼ同数)。
さらに在庫・逆ざやを抱えた食管会計は膨大な赤字となり、コメは財政赤字の最大の原因のひとつとして国鉄・健保とならび3Kといわれるまでになりました。
そのため政府は、緊急対策として、いわゆる行政指導により、米の作付制限=減反にのりだします。これには法的根拠はないものの、協力農家へは転作奨励金等を交付し(アメ)、逆に協力しない農家からは米の買入量を減らすとともに減反目標を達成しない市町村へは農業補助金をストップするなど(ムチ)の措置により、すべての農家に一定の比率で減反を強制したのです。この制度は結局、臨時の措置にとどまらず現在まで続けられることとなりました。
こうした社会の変化の中で、食管法も現実にさまざまな手直しがなされました。
1969年には自主流通米が創設されます。これは政府米と流通ルートは同じながら、政府を介さずに流通する米のことです。自主流通米には、いわゆる銘柄米、おいしい米が産地や品種を特定して指定され、その割合は年々ふえて、現在では政府米が2〜3割に対し自主流通米は7〜8割にも達しています。また近年では、自主流通米の値段を決めるのに入札制が取り入れられ、この価格をもとに個々の取引が行われています。
その他にも食管制度の流通規制を緩和する措置がとられ、たとえば、消費者米価の自由化(1972年)により米の小売値は自由につけられるようになり、1981年には配給制度そのものをとりやめ米穀通帳も廃止されました。
しかしそれでもおいしい米を求めていわゆるヤミ米は横行し、公の許可を得ない業者が、あるいは許可業者もが参加して、政府が管理する食管制度とはまったく別の、市場原理で動くいわゆる「自由米市場」ができあがり、国内に流通する米のなんと3〜4割にも達することとなりました。こうしたヤミ米(自由米)はもはや完全な市民権を得、現実に法的な取締りも全くなされない実情です。
こうして食管法は、完全に建前だけの形骸化したものと堕していきました。
一昨年の米をめぐっての騒動は皆さんの記憶に新しいところです。1993年の冷夏により米は不作(例年の7割)、米の値段はうなぎ上りで、一粒も入れまいといっていた輸入米に頼らざるをえないありさまです。本来こうした米不足のときにこそ本領を発揮するはずの管理制度が機能せず、食管法がもはや破綻したことは誰の目にも明らかとなりました。
これまで頑強に食管法の廃止に反対していた農協なども、正直に減反に協力した農家がバカを見て、自由米でもうけた人がマスコミからほめられる事態の到来に、もはや法改正は不可避と認めざるを得ない状況です。
さらに米輸入の自由化をめぐり、政府は最低輸入量を外国と約束するに至りました。
ここにきて、50数年の長きにわたりさまざまな議論がありながらもまがりなりにも維持されてきた食管法が、わずか一年の間に廃止され、新たな食糧法ができることとなったわけです。
新食糧法は、米の取引を完全な自由市場とするものではけっしてありません。米は今でも私たちにとって最も大切な作物であることに変わりはないからです。
新食糧法の特徴としては次のようなものがあげられます。-
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- @ 米不足の事態に備えるための「備蓄」と米過剰を防ぐための「生産調整=(減反)」を法的に初めて位置づけたこと。
A 政府が取扱うのは、輸入米と右の備蓄米に限り、しかも備蓄米については数量を一定に限定すること。
B 米流通の中心は自主流通米とすること。
C 流通ルートの指定・許可規定を緩和し登録制にするとともに種々のルートを認めること。
D 価格について市場原理をさらに導入すること。
E 流通自由ないわゆるヤミ米(自由米)も届出さえあれば法的に公認したこと。
- それでは、もう少し具体的にみていくことにしましょう。
政府はこれまでどおり3月末までに米の需給や価格についての基本計画を発表します(法4条、施行令4条)。それに先立ち、11月中に生産と出荷の指針を定めて、翌年の政府買付量や作付面積・減反の必要な面積などを公表することとなりました(法4条3項、施行令6条)。
こうして発表された指針をもとに各農家が翌年の米の作付けの予定を決め、減反に参加するかどうかを明らかにするためです。そして減反に参加するか否かは農協を通じてまとめられ、政府に届出られて基本計画作成の資料となります。つまり、これまで行政指導という名の一律強制であった減反を、希望農家を対象とする制度に改めたわけです。
政府が政府米として購入するのは、こうして減反に参加した農家からだけに限られ、しかもそれは備蓄用に限定されたものとなります(法5条2項、同59条1項、施行令16条)。その量は毎年約150万トン(その年に応じ前後50万トンの幅)が予定されています。また政府は外国と約束した米の最低輸入量など輸入米も扱います(法60条)。この輸入米の一部もやはり備蓄に回される予定です。
これら備蓄米は一年間倉庫で保管された後に市場に出され、また新たな米が備蓄されることとなります。
米の流通に参加する要件が緩和され、さらにそのルートも多様なルートが認められることとなりました。
従来、米の集荷を扱う者は指定制、卸・小売りは許可制がとられていましたが、新法ではこれらのほとんどが登録制に改められました。
農家から直接米を集めて出荷する業務を行う各単位農協などは、第1種出荷取扱業と呼ばれ、農水大臣が都道府県ごとに登録します(法6〜21条)。この1種登録出荷取扱業者から米を買う経済連(経済農業協同組合連合会)などが第2種出荷取扱業で、やはり農水大臣が登録します(法22〜27条)。
一方、卸・小売業という米の販売を目的とする業者は都道府県知事の登録制がとられます(法35〜47条)。 出荷取扱業はその資力・設備に信頼のおける業者である必要があるため、この登録には一定の要件が必要です(施行令20条等)。しかも減反の指導・助言にも直接あたることとなるため、新規参入は簡単ではありません。
これに対し卸・小売業は、従来の定数による制限が解かれ、しかも登録といっても事実上届出に近い制度となり(施行令29条、規則47条等)、96年6月には新規の登録が始められます。そのため大手食品卸会社などが総合商社をバックに米の卸にのりだす予定で、卸業界の競争は激化必至の状況です。さらに小売業についてはスーパー・コンビニ・外食産業等々の参入が目白押しで、現在の1.5倍に増えるとの予測もあるほどです。
また、自主流通米は、従来どおりこれら登録業者によって取扱われるとはいえ、これまで各段階をとおる原則として一本道しか認められていなかったものが、第2種出荷業・卸等といった間をとばした取引や、卸間といった取引も可能なこととなりました。
もちろん、法的に認められた自由米(ヤミ米)は届出さえすれば流通についての規制は一切ありません(法5条5項)。
自主流通米が主流となり政府の役割が限定されることになったため、流通の中で全国的な集荷を担当していた全農(全国農業共同組合連合会)などが、重要な役割を担うこととなりました。「自主流通法人」として国の指定に基づく公益法人となります(法28〜34条)。
この自主流通法人は、単に出荷取扱業者から米を買って他に売却するだけではなく、自主流通米の流通計画を立て(農水大臣の認可が必要)、その流通の責任をもつことになります。しかも政府と並んで独自に備蓄も行い、さらには米の供給過剰による暴落を防ぐために在庫量を調節する(調整保管)という責務まで負うことになります。
そのため、この自主流通法人には膨大な資金と施設とノウハウが必要となり、それらを満たした営利を目的としない者だけが指定されることになっています(施行令25条等)。
近年始められた自主流通米の入札制度が整備され、「自主流通米価格形成センター」と名称を変えて、全国にひとつの公益法人として指定されました(法48〜58条)。
ここで、自主流通法人と第2種登録出荷取扱業者が売り手となり、登録卸売業者が買い手となって(来年には一定の小売業者も参加の予定)、産地銘柄ごとの入札が定期的に行われます。そして決められた入札価格が指標となり、それ以外の取引が相対で個々に行われることとなります。
こうした制度は基本的には従来と同じですが、以前の閉鎖的な入札に比べ多数の業者が参加することとなります。またここで決められた価格や米の需給の状態が政府米の買入価格にも反映されることが法律の上で明文化されました(法59条2項、ただし、従来どおり農家所得なども考慮し米価審議会の意見を聞いて決定する)。
今回とられた一連の措置により、減反の達成は困難となり米はさらに余る一方、流通過程への多数業者の参入により競争激化がもたらされるなど、米の価格は現在よりも確実に下がるとみられています。
今回の改正に伴って、従来の米の品質表示が廃止され、新たに販売業者(卸・小売)に自主流通米の表示が次のように義務づけられました(規則50・60条及び通達)。
表示には、(1)産地、(2)品種名、(3)産年の3点を必ず記載すること。ブレンド米については、その割合の多い品種から順に同様に記載し、その構成比率が60%になるまで記載します。たとえば、「新潟産コシヒカリ7年40%、北海道産きらら7年10%、山形産はえぬき7年10%、その他40%」などです。そして特定の米が70%入っているなら「ひとめぼれブレンド」などと袋の表に記載することも認められます。
これらの表示と中身が合っていることを保証するために、精米表示の認証制度も創設する予定です。
このほか、米の輸入については従来どおり政府が行う以外は許可制となっていますが、新たに輸入後の買入先をみつけてその売買契約を結んだ上で輸入するという方式(SBS)も認可され、政府輸入米の一定の割合を占めることとなりました(法62条)。
また、緊急事態に備える条項として配給制度の採用も盛り込まれています(法83条)。
* * *
新食糧法はそのきわめて多くが政令・省令に委ねられており、これからの運用がもっとも問われているところです。しかし食管法の廃止で、米も市場原理から無縁ではいられなくなり、ますます競争が激化することは明らかです。
しかし、市場原理は万能ではありません。ましてや米は主要な食料であり、農業分野でも大きな割合を占めています。また農作物は自然が相手で豊凶の変動と予測はむずかしく、工業製品と異なり生産周期も1年と非常に長い特殊な性格をもっています。さらには山間の棚田などの農地はただ単に米を作るだけではなく、国土の保全や災害防止などに欠かせない大きな役割を担っているものです。こうした食料政策にとどまらず、広く農業政策・社会政策の観点からも、米問題をとらえることが必要となっているといえましょう。


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