長寿社会をみすえて――『年金改正』

年金満額支給は65歳からに…

60〜65歳の厚生年金の削減と在職老齢年金の増額

国民年金法等の一部を改正する法律

長寿社会にみあった年金制度の見直しへ


 わが国では成人に達した者は必ず公的年金に加入しています。この年金制度が大幅に再編され、これらすべての人を対象にした基礎年金がつくられたのが昭和61年4月でした(くわしくはそよ風20〜24号年金大改革特集参照。近日登載予定。しばらくおまちください。)。この基礎年金をもとに、その二階部分ともいえる年金として、サラリーマンは厚生年金、公務員等は共済年金に加入し、さらに平成3年4月には新たに自営業者などを対象にした国民年金基金(そよ風54号。近日搭載予定。しばらくおまちください。)も設立されました。
 しかし老齢化・少子化社会が予測をはるかに超えて進むなかで、公的年金制度もそれに対応する改正を迫られ、5年ごとに見直しが行われることとなっています。
 一昨年国会において決定されたこの年金法の改正も、このままでは破綻しかねない年金財政を建て直すため、長期にわたる予測をし直し、長寿社会にふさわしく、また将来の現役世代への負担に配慮したものとなっています。

老齢厚生年金 60歳満額支給から段階的に65歳満額へ


 老齢基礎年金の受給開始は65歳です。しかしサラリーマンについては、現在、60歳になった時点で厚生年金から「特別支給の老齢厚生年金」が支払われ、65歳になって受け取れる年金額と同額が支給されています(女子の場合は今現在60歳に引上げ中)。つまり、60歳〜65歳の間はこの特別支給の老齢厚生年金が、そして65歳になったら老齢基礎年金と報酬比例部分として加算される老齢厚生年金の両方が支給されます(図1)。
 今回の改正では、この特別支給の老齢厚生年金の金額が、65歳以降老齢厚生年金として支払われるいわゆる報酬比例部分のみの金額へと減額されることになりました。
 この措置には十分な切替期間をおくということで、2001年から開始し、3年に1歳ずつ段階的に満額支給を遅らせて、2013年に完全に切り替えることとなります。女子の場合は、現在支給開始年齢を60歳に引上げ中であることを考慮して、この切替えを男子より5年遅らせて、2006年から2018年にかけて切り替えることとなります([表1])。

[表1]支給開始年齢引上げのスケジュール
男子の支給開始年齢引上げのスケジュール
生年月日1995年4月1日
における年齢
支給開始年齢
(別個の給付は60歳から支給)
昭和16年4月2日〜昭和18年4月1日
昭和18年4月2日〜昭和20年4月1日
昭和20年4月2日〜昭和22年4月1日
昭和22年4月2日〜昭和24年4月1日
昭和24年4月2日以降
52歳〜53歳
50歳〜51歳
48歳〜49歳
46歳〜47歳
45歳以下
61歳
62歳
63歳
64歳
65歳

女子の支給開始年齢引上げのスケジュール
生年月日1995年4月1日
における年齢
支給開始年齢
(別個の給付は60歳から支給)
昭和21年4月2日〜昭和23年4月1日
昭和23年4月2日〜昭和25年4月1日
昭和25年4月2日〜昭和27年4月1日
昭和27年4月2日〜昭和29年4月1日
昭和29年4月2日以降
47歳〜48歳
45歳〜46歳
43歳〜44歳
41歳〜42歳
40歳以下
61歳
62歳
63歳
64歳
65歳

 この決定に伴い、現在では基礎年金の繰上げ支給(65歳までに繰上げて減額された年金額を受け取る)を受ければ、特別支給の老齢厚生年金は一切受けられなかったのに対して、基礎年金の繰上げ支給と報酬比例部分の老齢厚生年金を同時に受けることが認められることとなっています。

働き続ける意欲をそそる在職老齢年金の制度へ


 この60〜65歳で支給される特別支給の老齢厚生年金は、賃金収入があるとそれに応じて年金が減額されます(在職老齢年金)。
 こうした減額幅は大きく、賃金の額に応じて年金額の2〜8割にも達し、賃金が増えるだけ年金が減るという現象があり、これでは職場で積極的に働こうという意欲をそぐものといわれてきました。
 今回の改正では、賃金収入が増えるのに応じて、賃金と年金の合計額が増えるようになっており、働きつづける意思を助けるように考慮されています(平成7年4月1日施行)。
 具体的には、次の@〜Cにしたがって計算され、受取額はたとえば[表2]のようになります。
@在職中は年金の2割が減額される。
A この8割の年金と賃金の合計が22万円までなら両者は併給される。
B 22万円を超えれば、その超えた部分について賃金2に対して年金1の割合で年金を減額する。
C 賃金だけで34万円を超えた場合は、さらに賃金分だけ減額する。

[表2]賃金と年金の合計額(年金額20万円のケース)
賃金
(カッコ)内は標準報酬
在職老齢年金
改正後現行
年金額合計収入
(年金+賃金)
年金額合計収入
(年金+賃金)
10万円(9.8万円)
15万円(15万円)
20万円(20万円)
25万円(26万円)
30万円(30万円)
34万円(34万円)
36万円(36万円)
14.1万円
11.5万円
9.0万円
6.0万円
4.0万円
2.0万円
―――
24.1万円
26.5万円
29.0万円
31.0万円
34.0万円
36.0万円
36.0万円
14.0万円
10.0万円
6.0万円
―――
―――
―――
―――
24.0万円
25.0万円
26.0万円
25.0万円
30.0万円
34.0万円
36.0万円

また、雇用保険制度も同時に改正され、高年齢雇用継続給付が創設されたので(くわしくはそよ風75号)、実際に受け取る額は、賃金+在職老齢年金+高年齢雇用継続給付金ということになります。
 もっとも平成10年4月1日からは、この在職老齢年金と高年齢雇用継続給付金の間の調整も行われることが予定されており、どちらも受けるときには、年金のうち賃金の1割に相当する額が減額されることになります。
 さらに、同じく平成10年4月1日より、雇用保険の失業給付と老齢厚生年金を同時に受けることはできなくなります。60歳で退職した場合、再就職を希望するとして職安に届ければ、失業給付として、それまでの収入の約6割にあたる金額を普通300日にわたり受け取ることができます。現在ではこれに加えて特別支給の老齢厚生年金(これも平均約6割)も支給されるわけで、約10ヶ月にわたり働かずしてこれまで以上の収入を得るのは過剰であり、これでは60歳以降も引き続いて働こうという意欲を阻害するものといえましょう。そこで、雇用保険の失業給付を受けるならば老齢厚生年金の支給は停止されることとなりました。

保険料負担を無理なく段階的に引き上げ


 国民年金(基礎年金)の保険料は昨年の4月からは1万1700円となり、これ以降毎年500円+物価スライド分が引き上げられる予定で、最終保険料は2015年に2万1700円(1994年度価格)になる見込みです。
 これに対して、厚生年金の方は、これまで述べてきたさまざまな措置をとることで支出を抑えることになりました。加えて、従来は現役世代の名目賃金の上昇率に合わせて年金額もアップさせていたものを、税金・社会保険料などを差し引いた手取賃金の上昇率に合わせて年金額のアップを抑えることになっています。
 こうして厚生年金の保険料負担があまりに重くなるのを防ぐ一方で、それにあわせた新たな引上げ計画が策定されました。これによると、一昨年2月に11%引上げ、本年10月にさらに0.85%引上げ、その後は5年ごとに2.5%ずつ引上げられる予定で、最終的には2025年に29.6%となる見込みです(図2、ただし保険料は労使折半なので実際に雇用者本人が負担するのはその半額)。
 ちなみに、これまでは月収にのみかかっていた保険料が、今年からはボーナス(賞与)等からも徴収されることになりました。保険料率は1%ですが(労使折半のため雇用者負担は0.5%)、年金支給額の算定基礎としては反映されません。
   *       *      *

 さらに昨年4月より、育児休業中の厚生年金保険料については、本人の申出により本人負担分が免除されることになりました。
 また、遺族厚生年金と老齢厚生年金の受給権を同時に有する場合に(たとえば死亡した夫の遺族年金と共働きしていた妻自身の老齢年金がある場合)、従来はどちらか一方しか受給できなかったため、自分自身がかけ続けた年金を受け取れないケースがありました。これを改め、当該遺族年金の3分の2と老齢年金の2分の1を併給することもできるようになりました。実際の運用では、社会保険庁でどちらか高い方の年金を選んで支給してくれますので、選択の必要はありません。
 さらに、短期滞在の外国人が保険料を実際には掛け捨てにせざる得ないケースを救うために、帰国後一時金を請求できる制度も整えられました。


ホームページへカエル
「最近の法令改正」目次にもどる
次のページ(PL法)へ進む