高齢者(60〜65歳)・育児休業者への新制度をスタート

働きつづけるためにも――雇用保険金を給付

雇用保険法の改正〜H7.4.1施行〜

 雇用保険は、公務員や船員など特定の分野の労働者をのぞきほぼすべての雇用者に適用され、いざ失業したときにはさまざまな手当てを給付するものです。しかし平成7年の4月1日より、失業だけではなく、雇用が続いている場合にも給付が受けられる制度が新たに発足しました。

高齢者と女性を 労働力不足解消の切り札に

 現在わが国では、人口構成の高齢化が諸外国にも例をみないスピードで進行しています。そのうえ、近年の少子化の傾向もこれに拍車をかけています。労働力人口とこの労働力人口によって扶養されるべき人口とのアンバランスが、将来きわめて深刻な事態を招くことが予想されています。
 こうした事態に対処するために、いまや、いかに高齢者と女性を労働の現場にとどめることができるか、さらに女性についてはいかに働きながらしかも子供を産み育てられるようにするかが問われています。平成4年には育児休業法がスタートし、さらに年金制度もこの方向で大改革が行われつつあります(年金の改正点についてはそよ風77号参照)。
 そこで雇用保険法についても、従来の失業給付のあり方が、かえって労働意欲をそぎ高齢者や女性の退職を促しさえしている面があるとして、新しく、雇用が継続している状態でも給付を行う制度を取り入れることとなりました。


60〜65歳の高年齢者に高年齢雇用継続基本給付金
再就職給付金

 これまでは「60歳まで働く社会」を掲げ、60歳定年制も定着(平成10年4月1日からは60歳を下まわる定年制は禁止)してきましたが、今や「65歳まで現役である社会」が目指される時代となりました。
 従来の制度では、60歳になって退職すれば厚生年金を受け取ることができ、しかもその際に失業給付をあわせて受け取ると、再就職するなどして働き続けるよりもたくさんの収入が得られるというケースがみられました(働くと受け取る年金額は削減され又はゼロとなる。しかも失業給付はもちろんゼロ)。大多数の人にとって60歳をすぎると賃金はたいていそれまでよりもずっと安くなります。これでは雇用保険があるために、かえって働く意欲がそがれるというわけです。
 そこで新しく創設されたのは、高齢者が働き続ければ給付金がもらえるという制度です(高年齢雇用継続基本給付金と再就職給付金)。対象となるのは、60〜65歳の高年齢雇用者で、被保険者であった期間が5年以上ある者です。これらの対象者の賃金が、60歳時点の賃金の85%未満に低下したときに給付金が支給されます(法61条〜61条の3)。


〔高年齢雇用継続基本給付金]
 従来からの職場で働き続けている場合に給付されるものです(法61条)。
 雇用者が60歳になったら、事業主は職安に、60歳時の賃金証明書と雇用継続給付の確認票を提出します(60歳の誕生日から10日以内)。すると受給資格確認通知書が交付されますので、賃金月額が届け出た60歳時の賃金の85%未満となったとき、被保険者が職安に申請して給付金を受けることができます。
 支給額は、賃金が64%未満となったときには当該賃金の25%相当額、64%以上85%未満のときは一定の割合で逓減され、右図のような割合となります。
 なお上限があり、賃金とこの給付金との合計額は36万1680円までとなっています。
 もし60歳時点で被保険者期間が5年なかった場合にも、5年になった時点で同じ手続きができることになります。

〔高年齢再就職給付金〕
 60〜65歳で失業して一旦失業給付を受けていた者が再就職をしたときに給付されます(法61条の2)。
 新たに雇い入れた事業主は、前記と同じく雇用継続給付の確認票を職安に提出します。すると職安から受給資格確認通知書が交付されるわけですが、このまま再就職しなければ失業給付を受けるはずだった日数が100日以上残っている場合にのみ、この再就職給付金を受けることができます。支給額は前記継続基本給付金の額と同じです(上図、上限も同じ)。ただし支給期間は、失業給付の残日数が200日以上あったときには2年間、100日以上のときには1年間となります。またこの期間中に65歳に達したときにはその時点で給付は打ち切られます。
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 60〜65歳を対象とした雇用と年金の調整をはかるため、この雇用保険法にとどまらず、年金法においても在職老齢年金の制度が改正されています(そよ風77号参照)。


育児休業者には育児休業基本給付金
職場復帰給付金

 育児休業法(くわしくはそよ風58号参照)は平成7年4月1日より、規模の大きさに関わらずすべての事業所に適用されました。といっても育児休業中の賃金や社会保険料の支払いは会社によってまちまちです。
 そこで現実には出産を契機に退職せざるを得ない状況を改善し、育児休業をとりやすい環境をつくるということで、育児休業を受ける人に給付金が支払われることになりました。対象となるのは育児休業開始前の2年間に被保険者期間(賃金支払基礎日数が11日以上ある月)が12ヶ月以上ある者です(法61条の4〜61条の6)。


〔育児休業基本給付金]
 育児休業中に以前の給与の20%<法改正により平成13年1月1日より30%に引き上げ>相当額を支給するものです。
 事業主は、雇用者が育児休業を開始したら10日以内に、休業開始時賃金証明書と育児休業給付の確認票を職安に提出します。すると受給資格確認通知書が交付されますので、被保険者は職安に申請して支給を受けることができます。
 支給額は、届け出た育児休業前の賃金の20%相当額<法改正により30%に引き上げ>です<ただし上限あり>。育児休業中の期間毎月支給されます。ただし事業主から育児休業中一定の賃金が支払われている場合には、その賃金と支給額の合計が休業前の賃金の80%までと上限が定められています(法61条の4)。

〔育児休業者職場復帰給付金]
 育児休業を終えて元の職場に復帰した者に支給するものです。別の会社に再就職した場合は支給されません。
 前述の手続きがなされておれば、元の職場に復帰して6ヶ月たった時点で(引続き雇用されていればよく、実際の就労の有無は問わない)、休業前の賃金の5%<法改正により平成13年1月1日より10%に引き上げ>相当分×休業月数がまとめて支払われます(法61条の5)。
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 ちなみに、育児休業期間中の社会保険料については、健康保険法等の改正により、この4月1日より、本人負担分については申請によって免除されることとなっています。


失業給付の改正所定給付日数の変更
給付制限の緩和

<雇用保険法は、平成13年4月1日より、失業給付の制度が一変し、さらに、平成15年5月1日より給付日数等の改定が行われています。下表等の記載は、平成7年改正時のもので、現在の制度については、「そよ風」123号をご覧ください。>

 失業に伴って給付される基本手当の給付日数は、年齢区分と働いていた期間に応じて何日とするかが決定されます。今回の改正でこの年齢区分が若干変更され、従来の55〜65歳のうち、55〜60歳は45歳以上の区分に入り45〜60歳の区分ができ、60〜65歳は新たな区分となりました。また日数も若干変更され、[表l]のとおり給付日数が定められました(法22条)。

[表1]改正後の所定給付日数
被保険者であった期間が1年未満である場合は一律90日
被保険者の
区  分
一般被保険者短時間労働被保険者
被保険者で
あった期間
1年以上
5年未満
5年以上
10年未満
10年以上
20年未満
20年以上 1年以上
5年未満
5年以上
10年未満
10年以上
20年未満
20年以上
30歳未満90日90日180日――90日90日180日――
30歳以上
45歳未満
90日180日210日210日90日180日180日210日
45歳以上
60歳未満
180日210日240日300日90日180日180日210日
60歳以上
65歳未満
240日300日300日300日210日210日210日210日
就職困難者45歳未満は240日
45歳以上65歳未満は300日
30歳未満は180日
30歳以上65歳未満は210日

 また支給額算定の基礎となる賃金日額の上限についても、従来は全年齢一律であったものが、年齢ごとに上限が設けられました([表2]、法17条)。そして60〜65歳で失業したときには離職したときの賃金をもとにするのではなく、60歳時点の賃金を基礎として計算するという特例がとられます(最初の失業に限る、法16条)。

[表2]賃金日額の上限額
年齢区分賃金日額上限額基本手当日額上限額
改正前全年齢15,070円9,040円
改正後〜29歳
30歳〜44歳
45歳〜59歳
60歳〜64歳
13,560円
15,070円
16,570円
18,080円
8,140円
9,040円
9,940円
9,040円

 さらに自己理由で退職したときなどは1〜3ヶ月の間失業給付が支払われない制限期間がありますが、職安の指示した公共職業訓練等を受講する場合にはこの制限期間は解除されることになりました(法33条)。




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