<これは、平成6年4月号の「そよ風」に掲載された記事です。>
大量生産・廃棄への決別 自然との共生社会へ
環境基本法の制定
求められるライフスタイルの転換
平成5年11月19日スタート
持続的な発展が可能な社会をめざして
従来、わが国における環境に関する法制度は、公害対策基本法を中心とするもので、国内の公害に対して環境基準・排出規制・公害防止計画などの施策により対症療法的に対応してきました。また自然環境の保護については、高山性・特異性といった貴重な自然に限定されがちで、保護の広がりを欠いている状況にあります。
しかしわが国では、いまや産業活動にとどまらず、
通常の社会生活・経済活動によって環境保全上の支障となるもの(環境負荷)が増大している
状況があります(たとえば、廃棄物の増大・生活排水・自動車排ガスなど)。また、学術的に希少な自然の保護もさることながら、
身近な自然が失われている
現実への対応が必要です。とりわけ
森林の環境保全力の低下
が憂慮されています。さらに、
地球的規模で対応すべき環境問題
がクローズアップされてきています(たとえば、地球温暖化・オゾン層破壊・海洋汚染・森林の減少・野生生物の種の減少など)。
平成5年(1993年)に制定施行された環境基本法は、
これらの現代的状況に対応するとともに
、かねてからの懸案である、
環境アセスメント(環境影響評価)の推進・環境税などの経済的措置等について新たな位置づけ
を与えたものです。大量消費・大量廃棄型の社会経済システムの転換をはかり自然の恩恵の享受やその継続に留意しつつ「持続的な発展が可能な環境負荷の少ない社会」を目指すものとして、この環境基本法の制定の歴史的意義は軽視できないものがあります。
3つの基本理念
新法では、環境の保全に関する基本理念として、(1)
環境の恵沢の享受と継承
(環境は生態系が微妙な均衡を保つことで成り立っており、現在及び将来の世代がその恵沢を享受し将来にわたって継承されるように維持されなければならないこと、3条)、(2)
環境への負荷の少ない持続的発展が可能な社会の構築
(大量消費社会から省エネやリサイクルに留意した環境にやさしい社会の実現を目指し、その中で健全な経済の発展を図ること、4条)、(3)
国際的協調による地球環境保全の積極的推進
(環境保全が性質上グローバルな課題であることを認識し、とりわけわが国経済の国際的相互依存性からも尽力しなければならないこと、5条)の3点を明記しました。
6月5日を環境の日に―国や国民の責務を明定
国や地方公共団体が前記の基本理念にのっとり施策を講ずることを義務づけるとともに(6・7条)、事業者に対しては、製造・加工・販売の過程での公害防止はもちろん、使用・廃棄する段階まで考慮した上で環境にやさしい製品をつくるよう配慮を求めています(8条)。また国民一般に対し、日常生活のレベルにおいても環境に負担をかけないよう努力を求めています(9条)。
さらに、
毎年6月5日が環境の日
と定められました。国民や事業者の間に、広く環境の保全についての関心と理解を深め、積極的に環境の保全に関する活動を行う意欲を高めようという趣旨で設置されたものです。当日、国や地方自治体は、環境の日の趣旨にふさわしい事業を実施するように努めることとなります(10条)。
環境を守るためには、国民の広汎な努力が必要です。そこで国は、
環境教育
、すなわち、
環境の保全に関する教育及び学習の振興に努め、環境保全に関する広報活動を行うこと
が義務づけられました(25条)。また、国民や事業者の組織する民間の団体が自発的に行う緑化・リサイクル等の環境保全活動を支援し、そのために必要な情報を民間団体等へ提供することについても努力を義務づけています(26・27条)。
環境基本計画と環境保全の施策
政府は、基本理念にのっとり、かつ、(1)自然環境の良好な保持、(2)生態系の体系的保全、(3)人と自然の豊かなふれあいをめざして(14条)、施策の総合的かつ計画的な推進をはかるため、環境の保全に関する施策の大綱(
環境基本計画
、15条)を定めることとなります。平成6年12月28日には、「環境基本計画」(総理府告示34号)が公表されました。
さて、環境保全のための施策の種類ですが、従前の公害対策基本法以来の、環境基準(大気の汚染など人の健康の保護や生活環境の保全のために維持されることが望ましい環境上の基準)の制定、排出等の規制(環境保全のため、汚染物質の排出や施設などを規制)、公害がひどい特定の地域についての公害防止計画の策定については、本法においてもこれらが引続き継承されます(16〜18条、21条)。
環境アセスメントの法制化等に向けて努力の必要
そして、さらに本法においては、国の施策として、環境影響評価(
環境アセスメント
)の推進(20条)および有効性が期待される(
環境税
など)経済的措置の導入(22条)が盛り込まれました。
環境影響評価
(開発事業を実施する前に周辺の環境への影響を調べ、その結果に基づいて必要な措置をとる制度)の法制化は大きな争点でしたが、これについて、本法20条は、法制化の明言を避けつつ「推進するため必要な措置を講ずる」とその含みを残した表現にとどめていました。海外の調査などを進め、2〜3年後に法制化の必要性を判断することとし、平成9年6月13日、「環境影響評価法」が制定され、平成11年6月1日より本格的にスタートします。
また
環境負荷を減らすための経済的措置
については、本年度から事業者に環境税を課する制度に加え、デポジット制度・補助金など種々のタイプについてその効果や経済成長への影響などの検討が行われると伝えられています。
一方、環境にやさしい製品を促進するために、事業者に対し、物の製造・加工・販売の段階から、使用・廃棄される際の環境負荷の低減―環境に与える負担を少しでも軽くする―に配慮するようにとの技術的支援(
製品アセスメント
・リサイクルなど)について定めたことも注目されます(24条)。
国際的な視点の導入と残された課題
さらに、地球環境保全に関するグローバルな視点から、
国際的な連帯の確保、開発途上にある海外の地域の支援、その他国際協力を推進
するために必要な措置を講ずるように努めることが盛り込まれました(32条)。とくに、ODA(政府開発援助)や海外事業による国外での環境破壊に対して留意し、
国際協力の実施や海外での事業活動が行われるに際しては、その地域における地球環境の保全に配慮すること
が特記されたこと(35条)は、本法の目配りとしてとりわけ注目されるところです。
* * *
さてこの法律の施行に伴い、従来の公害対策基本法は廃止され、同法中の重要な制度(環境基準など、前述)はこの法律が継承して引続きその推進がはかられます。しかし、日弁連を中心に多年提唱されてきている
環境権
の法的位置づけはこの基本法では見送られました。もっとも自治体レベルでは先駆的な条例化の努力がみられます(
大阪府
は平成6年3月23日公布の
環境保全基本条例
において、良好で快適な環境を享受する府民の基本的権利として環境権に言及)。環境権が、自然享有権の考え方とともに、いずれ規範として法定されることが期待されるところです。
環境基本法は、環境の保全に関する基本理念及び各主体の責務を規定するとともに、環境保全に関する施策のプログラム等を規定したものです。この法律を新しい出発点として、環境を守り引継いでいくための新たな取組みが一層積極的に進められることが期待されます。
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