<このパートタイム労働法は,平成20年4月1日より改正法が施行されました。くわしくはそよ風152号をご覧ください。>

短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律

短時間パートに初めての保護立法

平成5年12月1日施行



パートは今や重要な労働力──全雇用者の2割弱


 総務庁の労働力統計によれば、1週間の就労時間が35時間未満の短時間雇用者数は、今から約30年前の昭和45年(1970年)で216万人(全雇用者の6.7%)であったものが、平成8年では実に1015万人、全雇用者の19.4%にも達しています。そのうち約7割が女性であり、女性雇用者全体でみると34%がこの短時間雇用者で占められています。
 しかし、ひとくちにパートタイムといってもさまざまです。ひと昔前なら、単純補助作業などの製造業がほとんどで雇用期間も短期でしたが、今では、販売業やサービス業など第3次産業に従事する人がふえ、さらに専門的・技術的職種へも就業分野が広がってきています。勤続年数も長期化し、労働省の調査によると、昭和45年の2.0年から平成8年では5.0年へと2.5倍の伸びを示しています。そのため、所定労働時間は正社員と同じで、ときには残業もこなし、もうすでに何年も同一の事業所でつとめている、さらには新規採用の正社員の教育にもあたる、それでも待遇はパートタイマーのままという場合すらあります。これらのフルタイムパートあるいは疑似パートと呼ばれる人たち(本工・正社員になる道が閉ざされているばかりにパートタイムの待遇に甘んじている)は、この統計上の短時間雇用者には含まれていません。しかし、この種のパートの存在はいわゆるパートタイマー全体の約2割を占めています。
 またさらに、パート労働を特色づけるものとして、労働力市場へ多数参入してきた主婦パートの存在があげられます。教育費・住居費を補うために、あるいは生きがいを求めてパートで働いている層です。こうした中には、世帯主の扶養者手当や配偶者控除が得られる範囲内での労働を希望し、所得税の非課税限度額である年収103万円や、健康保険・年金への加入が義務づけられない枠内で働くことを積極的に希望する人たちが多くみられます。
 また、高齢化社会を反映し、定年後の雇用としてパートタイムを選ぶ人たちも多く、とくに60歳以降の男子が急増しています。
 いずれにせよ、パートタイム労働はわが国の就業形態の中で重要な位置を占めるに至りましたが、それにもかかわらず、パートタイマーという言葉の定義すらはっきりせず放置されたままにきたのが現状です。

パートのみを対象にした初めての法制定


 パートタイマーといっても労働者にかわりはありませんから、従来から、労働基準法や最低賃金法、労働安全衛生法、労働者災害補償保険法などの労働者保護のための法は、当然パートにも適用されています。
 これに加え、近年急増したパートの処遇面での立ち遅れに対応するため、1988年(昭和63年)にはパートにも年休制度が法制化され(労基法39条3項)、1989年(平成元年)には失業手当ももらえるようになりました(雇用保険法の一部改正、そよ風43号参照)。また1991年(平成3年)には退職金制度を改善するため、中小企業退職金共済(中退金)の適用を受けることができるようにもなりました。
 他方、パートタイマーに対する国の基本的な考え方を示すものとして、平成元年6月に労働省告示『パートタイム労働者の処遇及び労働条件等について考慮すべき事項に関する指針』が出され、それ以来、指導の指針とされてきました。
 平成5年の法制定は、パートタイマーだけを対象とする法律を制定するという意味では初めての立法であり、従来の労働省指針を「法律」という形で高めることで、「指針」のもつ意味を強化したものといえます。

1週間の所定労働時間が短い者を対象に


この法律では、短時間労働者として、1週間の所定労働時間が同一の事業所に雇用されている他の労働者に比較して短い者を対象とすることにしました(2条)。条項はすべて罰則をともなわず、事業主や事業主団体、国・地方公共団体などに努力を求める規定となっています。
 まず、労働大臣は、婦人少年問題審議会の意見を聞いて基本方針を作成公表し、その中でパートの動向と雇用状態の改善や能力開発のための基本施策を示します(5条)。
雇用状態を改善するために具体的に法に盛り込まれたものは次のような内容です。まず、雇い入れにあたっては、雇入通知書を文書で交付するよう努めねばなりません(6条)。当初の話と違い思ったより賃金が安かったとか、残業の話は聞いていなかったというトラブルを防ぐため、労働時間や賃金・残業などにつき明確にするわけです。また、就業規則を作成・変更するにあたってはパートの過半数を代表すると認められる者の意見を反映するよう努めることが規定されています(7条)。そしてパートを10人以上かかえる事業所では、短時間雇用管理者を選任しパートの雇用管理の改善に努めることとしています(9条)。労働大臣は基本方針を具体化するための指針を策定し(8条)、改善のために報告を求め助言・指導・勧告をすることができます(10条)。また、パート労働者の能力開発・向上に向けて国や地方公共団体が努力することを要請しています(11・12条)。

短時間労働援助センターの設置


 パートの職業紹介や相談の窓口としてはパートバンクやパートサテライトなどがすでに設けられています。この法律では、全国的に1つの短時間労働援助センターを設け、都道府県にはその支部を設けることとなりました(13・14条)。
 このセンターでは、パートの調査研究行い、情報・資料を収集・提供し、事業主などを対象に講習を行います(15条)。また、パート労働者の雇用条件を改善するために努力している事業主を対象に給付金の支給を行い、同時に事業主やパートタイマーの相談にのったり、研修を行うこととなります(16条)。
なお、このセンターについては1994年(平成6年)4月よりスタートしました。
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 バブル経済が崩壊した現在、世帯主の残業が減り収入が減ることで今まで以上に働きたい状況があるにもかかわらず、パートタイマーは雇用不安に真っ先にさらされています。労働の形態や内容が補助的なものから専門的なものまで、専業主婦のパートから定年後のパートまで、家庭の事情でやむなしのパートから人生ゆとりのパートまで、パートにはさまざまな顔があります。また年功序列賃金が是認されているわが国では、正社員とパートを同列にして論じることには難しい問題があります。パート法はまでできて日が浅い法律です。これからの運用・規制が何よりも問われているところです。
 また、パートと本工・正社員との相互移行や、今回の立法では対象とならなかったいわゆるフルタイムパートの法律上の処遇についてさらに明確にするための措置が早急にとられる必要があります。



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